研究実績の概要 |
地球のマントル深部を構成していると考えられている物質について、熱力学的安定性を検討する際には、エンタルピー、熱容量、エントロピーが必要となる。本研究では、高温熱量測定が困難な物質について、高圧ラマン分光測定をおこなうことにより格子振動の情報を取得し、格子振動モデル計算を用いて理論的に熱容量およびエントロピーを推定する試みを行った。 玄武岩や大陸地殻がマントル深部に沈み込んだ場合の高圧構成鉱物の一つに、カルシウムフェライト型結晶構造を持つ相がある。その最主要端成分であるカルシウムフェライト型NaAlSiO4は、1気圧下で100℃以上の加熱により結晶構造が崩壊してしまう。このため、高温熱量測定の困難さから熱力学データが不足していた。そこで、1気圧下室温で測定したラマンスペクトルおよび第一原理計算による格子振動モード解析結果を用いて、定積熱容量を格子振動モード計算により求めた。さらに、高圧ラマン分光測定により決定した格子振動の振動数の圧力依存性を用いて非調和効果を見積もり、定圧熱容量と標準エントロピーを決定した。 また、地球下部マントルの主要構成鉱物(Mg,Fe)SiO3ペロブスカイトのアナログ物質である(Mg,Fe)GeO3ペロブスカイトについて、高圧ラマン分光測定を行った。この物質は、1気圧下に凍結回収することができない。そこで、(Mg0.5、Fe0.5)GeO3斜方輝石固溶体をダイヤモンドアンビルセルで加圧したままレーザーで加熱することによりペロブスカイト型固溶体を高圧高温合成した。そして、加圧したままの状態で、室温下においてラマン分光測定を行うことにより格子振動の情報を取得した。得られたデータは、Mg-Feペロブスカイト固溶体のFe端成分の熱容量を予想するために重要である。
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