希ガスは化学的に安定・不活性なので惑星大気誕生以来その存在比が一定であると考えられる。ところが、現在の地球大気とその原材料物質とされるコンドライト隕石とを比較すると、現在の地球大気中のキセノン(Xe)の存在比が著しく低い。本研究では、行方不明のXeが地球内部物質(地殻・マントル・核)と複合物・化合物を作って地球内部に留まっている可能性について、および高圧下でのXeの特異な物性について第一原理結晶構造予測法などを用いて探究した。初年度はXe-SiO2系の探索を行った:まず、シリカ(SiO2)は、メラノフロジャイト、千葉石など籠状結晶(シリカ・クラスレート)を作ってガスを内包する ことが知られているので、この籠状結晶にXeガスが捕捉されている可能性について探索した。各種密度汎関数を用いた第一原理分子動力学計算により0GPa~20GPaの圧力範囲でXe 含有シリカ・クラスレート各種多形のエンタルピーを計算した結果、地球内部条件下ではXe含有シリカ・クラスレートはXe結晶とシリカに分解した状態に 比べてエンタルピー的に不安定であることが分かった。二年度目はXe-Fe系の探索を行った。Xeの濃度が低く固体中の不純物として扱える場合と、Xeの濃度が高くXe-Feの結晶を形成する場合とについてエンタルピー的安定性を検討した。前者については、先行研究の結果を確認することができた。後者に付いては、内核条件の高圧下におけるXe-Fe系の安定な結晶構造の発見について他の研究グループに先行された。したがって、二年度目は顕著な成果は得られなかった。最終年には、Xe-H2O系(ガスハイドレート)の探索を行った。その結果ガスハイドレートの高圧下での結晶構造およびエンタルピー的安定性について新しい知見を得た。また当初の計画には無かったキセノン化合物の知見も得た。これらの結果を論文にまとめる準備を行っている。
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