従来、水素や酸素などの軽元素に比べて、鉄やストロンチウムなどの重元素の安定同位体比は、大きく変動しないと考えられてきた。しかし、近年の質量分析技術の向上により、重元素の安定同位体比の微小な変動が測定できるようになってきた。ストロンチウムの安定同位体については、過去の研究により様々な種類の岩石について測定され、その同位体比に変動があることが見いだされていた。次なる課題は安定同位体の分別メカニズムを明らかにすることである。そこで本研究では、単一のマグマから結晶分化によって形成されたと考えられる花崗岩体内部におけるストロンチウムの安定同位体比の変動について研究を行った。対象としたのは東北日本、福島県檜枝岐村付近に分布する只見川花崗岩類である。この花崗岩は、全岩化学組成において各元素がハーカー図上で単一のトレンドを形成する。また、ルビジウム-ストロンチウム全岩アイソクロンを形成し、その年代とジルコンのウラン-鉛年代が調和的である。以上のことから、この岩体は単一マグマの結晶分化作用によって形成されたと考えられる。本年度は花崗岩を構成する鉱物に着目し、花崗岩から斜長石とカリ長石を単離して、ストロンチウム安定同位体比の分析を行った。ダブルスパイク法を用いてストロンチウム安定同位体比の分析を行った結果、同位体比にバリエーションがあることが明らかになった。また、全岩のストロンチウム量とカルシウム量の減少に伴い、デルタ88ストロンチウム値は減少した。以上の結果から、花崗岩質マグマにおけるストロンチウム安定同位体の分別は、マグマだまりでの結晶分化過程によって起こり、特に斜長石の結晶分化に起因する可能性が高いことが明らかになった。
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