研究課題/領域番号 |
24540532
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
門 信一郎 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (10300732)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 近赤外スペクトル / 衝突輻射モデル / 輻射捕獲 / ダイバータ模擬装置 / MAP-II |
研究概要 |
ヘリウム原子の輝線スペクトル強度比を測定し、衝突輻射モデルを利用してプラズマの電子密度・電子温度を推定する、いわゆる「線強度比法」の利用が近年特に浸透してきた。しかしながら、ダイバータ領域や放電プラズマなど、電離度の低いプラズマが輻射場として自分自身の占有密度に影響を与える自己再吸収過程(輻射捕獲)の評価に重要な役割を担う 1重項2P準位の占有密度ないしその空間的な広がりは、従来の可視分光の範疇では測定できない。そこで、分布形状を仮定して感受性を調べる、光線追跡計算を行う、1重項1S - 2P(58.4 nm)の真空紫外分光を行う等のアプローチがなされてきた。 本研究では、1重項2P準位の新たな評価方法として、1重項2S - 2P遷移(2058.130 nm)の測光可能性を検討した。典型的ダイバータ模擬装置のパラメータを仮定してHe I衝突輻射モデルを用いてその発光強度を推定したところ,計測可能であるとの見込みが得られた。 既存の焦点距離f = 35 cm, F/3.8のツェルニ・ターナー型分光器にInGaAsリニアイメージセンサ(2段電子冷却型、 256 ch)を設置した。感度波長範囲は900-2550 nm、素子の冷却温度は-20℃である。 波長同定のための較正光源として水素、ヘリウム、ネオン放電管を用い、可視光~近赤外にある輝線の多重回折光を利用した。 ヘリウムグロー放電ランプの予備的観測で目的とするHe I輝線が確認されたため、これを東京大学MAP-IIダイバータ模擬装置に適用し、初期的ながら計測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は(i)1重項2P準位の占有密度の実測が可能な赤外分光システムを構築し、(ii)輻射捕獲を考慮した衝 突輻射モデルに組み込む原理の実証を行い、(iii)プラズマ診断に適用する、ことを目的として開始された。 これまでの分光システムと光学素子の経験を活用し、既存の可視分光器を改造することで、低コストで赤外分 光装置を試作した。赤外測定用の回折格子、可視カットのためのGeウインドウや誘電体多層膜フィルター、赤外 用の光学素子を用意し、受光光学系を構築した。赤外分光のための検出器として適用可能性を評価するため、暗電流やゲイン等を実測した。さらに、近赤外域に用いることができる波長基準を得るための放電ランプの種類やスペクトルが限られているため、同定できた波長を有効利用して、全領域の波長較正を行なった。その際、分光器逆線分散値を実験的に求め、その値を利用して焦点距離、マウント偏角といった分光器の特性をきめるパラメータを求めることに成功した。 このように、当初の目的通り、近赤外領域のヘリウム輝線の観測システムを構築し、較正の後、実際にスペクトルの観測に成功した事実から、おおむね順調に進展したと評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、確立された分光システムを利用し、当研究室の核融合境界層/ダイバータ模擬装置MAP-IIのヘリ ウムプラズマ放電の分光診断に進む。特に以下の2点の物理研究に着目し、ハード面、ソフト面の開発と並行し て着手する。解析には衝突輻射モデルを用いる。衝突輻射モデルとは、ある準位の占有密度に対する流出、流入 のレートバランス方程式から、定常となる占有密度を求めるモデルコードである。水素やヘリウム等の軽元素に ついては、よい精度の評価済み原子分子データベースが存在しており、それらが組み込まれている。 具体的に は、 1) 衝突輻射モデルをもちいて、赤外領域の輝線の波長、発光強度、輻射捕獲過程への感度を調べる。 2) 赤外分光の結果を衝突モデルに厳密に組み込む試みを行う(径方向分布の利用)。 初年度は主に1)への応用を遂行しつつ2)への検討を開始する。 可視分光については、現在所有している可視分光器および、申請者らが開発した、イメージング計測が可能な スペクトラカメラシステムを利用する。現在、手動操作に頼っているが、画像データの解析は大量の処理量とな るため、CRモデルを画像データに適用する自動処理ツールの開発を行う。それに先駆けて、現在、ピクセルベー スのアーベル逆変換を利用した解析手法を開発し、衝突輻射モデルへの組み込みを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請者の所属はMAP-II装置のある東京大学から京都大学へ異動となったが、引き続き本研究は東京大学において行うことになっている。 平成25年度は、MAP-II装置における計測を本格的に開始し、他の計測と比較するための計測ポート関連機器、データ処理に必要なハードウエア及びソフトウエア、京都ー東京間の出張旅費、成果発表のための経費を計上する予定である。
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