研究実績の概要 |
ヘリウム原子の輝線スペクトル強度比を測定し、衝突輻射モデルを利用してプラズマの電子密度・電子温度を推定する、いわゆる「線強度比法」の利用が近年特に浸透してきた。しかしながら、ダイバータ領域や放電プラズマなど、電離度の低いプラズマが輻射場として自分自身の占有密度に影響を与える自己再吸収過程(輻射捕獲)の評価に重要な1重項2P準位の占有密度ないしその空間的な広がりは、従来の可視分光の範疇では測定できない。そこで、分布形状を仮定して感受性を調べる、光線追跡計算を行う、1重項1 S - 2P(58.4 nm)の真空紫外分光を行う等のアプローチがなされてきた。 本研究では、1重項2P準位の新たな評価方法として、近赤外領域にある1重項2S - 2P遷移(2058.130 nm)の測光可能性を検討した。典型的ダイバータ模 擬装置のパラメータを仮定してHe I衝突輻射モデルを用いてその発光強度を推定したところ、計測可能であるとの見込みが得られた。 既存の焦点距離f = 35 cm, F/3.8のツェルニ・ターナー型分光器にInGaAsリニアイメージセンサ(2段電子冷却型、 256 ch)を設置した。感度波長範囲は900-2550 nm、素子の冷却温度は-20°Cである。 波長同定のための較正光源として水素、ヘリウム、ネオン放電管を用い、可視光~近赤外にある輝線の多重回折光を利用した。 ヘリウムグロー放電ランプの予備的観測で目的とするHe I輝線が確認されたため、これを東京大学MAP-IIダイバータ模擬装置に適用し、輻射捕獲の強い影響を示唆する、他の非共鳴線に比べ有意に空間的に広がった1重項2S - 2P遷移を確認した。これは輻射捕獲の空間構造を考慮した衝突輻射モデルによる予想に合致する結果であり、この近赤外領域の輝線の有用性がはじめて実証された。
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