本研究は、グラフィックスプロセッサを用いた数値シミュレーションを行うという情報科学的側面と、銀河の膠着円盤についての解析を行うという物理学的な側面の2つにおいて、運動論に基づいたモデルを用いるという新しい試みを行うものである。これまで、情報科学的な側面と物理学的な側面の両方について少しずつ進展があった。 ところが昨年度米国物理学会で行った成果発表において、カリフォルニア工科大のBellan教授からモデルの妥当性について質問を受けた。本研究では、従来の電磁流体的モデルに基づく解析で用いられているように、粒子がケプラー回転(回転角速度の逆数が半径の3/2乗に比例)する、という仮定をおいていた。この流体的な力学平衡を運動論に拡張し、膠着円盤の構成粒子がほぼ円軌道を取ると仮定してVlasov方程式の定常解を求めたわけである。これに対しBellan氏の主張は、重力と電磁力の相互作用下における荷電粒子の運動はケプラー運動から大きく外れるため、「ほぼ円軌道」の粒子集団を仮定することは、対象を限定しすぎることになるのではないか、というものである。 本年度はこの疑問に答えるために物理学的側面を見直し、Bellan氏から紹介頂いた文献も参照して、新たなモデルによる検討を行った。特殊相対性理論を用いた簡易モデルに基づいて粒子軌道の分類を行った結果、Bellan氏の評価以上に多様な粒子軌道の可能性があることがわかった。現在はこの結果を論文にまとめるため、さらに詳細なモデルを用いて解析を進めているところである。
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