研究課題/領域番号 |
24540535
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
樋田 美栄子 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00273219)
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キーワード | 無衝突衝撃波 / 非線形磁気音波 / 粒子加速 / 不安定性 / 多種イオンプラズマ |
研究概要 |
理論解析と計算機シミュレーションを用いて、非線形磁気音波の構造形成と伝播、粒子加速、それに伴う不安定性を研究している。斜め衝撃波による捕捉電子の運動、磁化プラズマ中の衝撃波の形成過程、非線形磁気音波における多種イオンの効果などについての昨年度の成果を、本年度は更に発展させた。 1. 空間2次元・速度3次元の電磁粒子シミュレーションを積み重ね、斜め衝撃波中の捕捉電子の運動についてパラメータ依存性を調べた。これまで、捕捉電子による不安定性の結果、多次元電磁擾乱が大振幅となること、その擾乱によって捕捉電子が衝撃波の主パルスから解放されること、また解放電子はその後旋回運動に伴って衝撃波を出入りすることにより更に高エネルギーへと加速されうることを示した。本年度は、多次元電磁擾乱の振幅、解放電子と追加速電子の割合、追加速によるエネルギー等が、衝撃波の伝播速度や外部磁場の強さにどのように依存するかを明らかにした。 2. 2次元粒子シミュレーションを用いて、磁場中の2つのプラズマの相互作用による無衝突衝撃波の形成を変形2流体不安定性の効果に注目して調べている。昨年度は、2つのプラズマの境界付近で強磁場パルスが形成され、それがイオンを反射することによって前進・後進衝撃波が形成されること、また磁場の圧縮と並行して進む変形2流体不安定性によって、イオン反射が非一様になり衝撃波の構造に影響を与えることを示した。今年度は、不安定性の非線形発展の機構を明らかにし、衝撃波の形成時間と多次元擾乱の振幅等について、プラズマの初速度や磁場の向きに対する依存性を示した。 3. 多種イオンプラズマ中の直角磁気音波における有限ベータ効果について、線形・非線形理論を構築した。低周波モードパルスから高周波モードパルスへの遷移、高周波モードパルスによる重イオンの加速、それに伴うパルスの減衰などのベータ依存性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非線形磁気音波の構造形成と粒子加速等について昨年度までの成果を発展させ、パラメータ依存性を明らかにすることを目指した。斜め衝撃波中の捕捉電子の加速については、捕捉電子が引き起こす不安定性とその効果が、衝撃波の伝播速度や外部磁場の強さにどのように依存するかを、2次元電磁粒子シミュレーションを用いて示し、これらの成果を査読付き論文1本として発表した。また、外部磁場中の2つのプラズマの相互作用による衝撃波の形成過程については、1次元の理論・粒子シミュレーション研究との比較を行った後、磁場の圧縮と並行して進む変形2流体の不安定性の非線形発展の機構を明らかにした。さらに、生成される衝撃波の性質について、2つのプラズマの相対速度や磁場の向きに対する依存性を示した。これらの成果を査読付き論文3本(そのうち1本は掲載決定)にまとめ発表した。多種イオンプラズマ中の直角磁気音波における有限ベータ効果の理論解析についても査読付き論文1本を発表した。 以上のことより、研究は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、多次元電磁粒子シミュレーションを用いて、無衝突衝撃波による粒子加速とそれに伴う不安定性の効果を研究する。平成25年度までは、斜め衝撃波中の捕捉電子が引き起こす不安定性が、電子の運動に及ぼす効果について研究を進めてきた。平成26年度は、この不安定性によって大振幅となる多次元電磁擾乱が、イオンに及ぼす影響を明らかにすることを目指す。イオンは衝撃波に出会うと、一部のイオンが衝撃波面で反射されて加速されることが知られている。まずは、反射イオンの割合が多次元電磁擾乱によってどのように変化するかを解明する。また、電子とイオンの他に陽電子が少量存在する場合は、陽電子が強く加速されることが1次元粒子シミュレーションで示されている。陽電子加速における空間多次元効果についての研究にも着手する。磁化プラズマ中の無衝突衝撃波の形成過程につては、これまで変形2流体不安定性の効果に注目したが、2つのプラズマの相対速度が光速に近い場合は、Weibel不安定性が重要になることが予想される。このような場合の衝撃波の形成と粒子加速についての研究を開始するための準備を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
スーパーコンピュータと本年度購入したワークステーションを使って、シミュレーションを行った。研究は概ね順調で、斜め衝撃波による電子加速、磁化プラズマ中の無衝突衝撃波の形成等について、パラメータ依存性を明らかにすることができた。特に、核融合科学研究所のスーパーコンピュータでのシミュレーションジョブが極めてスムーズに実行された。そのため、名古屋大学のスーパーコンピュータの利用時間を当初予定したよりも抑えることができ、この経費を次年度にまわすことにした。 次年度は、より大規模な粒子シミュレーションを遂行する。そのシミュレーションで得られたデータを解析し可視化するために必要となる高性能のパソコン、ソフトウエア、ならびに大規模データを保存するための大容量ハードディスクを購入する。次年度が最終年度であるため、これまでの成果を発表するための論文投稿料や学会参加料や旅費等も、昨年度よりも多く必要になると見込んでいる。
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