研究課題
これまでに,大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの高出力レーザー,激光XII号を用いて,飛翔体(衝突体)としてアルミニウム弾丸(直径 80~250ミクロン)を秒速10-50 kmに加速し,かんらん岩や玄武岩などの岩石標的を用いて衝突実験を行った.レーザーエネルギー学研究センターに既存の時間積分型のX線ピンホールカメラを使って標的表面付近を計測した結果,標的表面上の弾丸が衝突する点付近からX線が発生しているのが確認された.高出力レーザー実験では,レーザーの漏れ光や反射光などが装置内各所に照射されプラズマが発生し,そこからのX線がノイズとして測定される可能性がある.今回の場合,加速のため弾丸に照射されたレーザーが弾丸の外側から漏れ,標的表面に照射され発生したプラズマがX線を出している可能性が考えられる.そこで,25年度は,次の段階として,弾丸加速のためのレーザーの漏れ光が標的表面に照射されて発生したX線と,衝突によるX線を区別する実験を行った.測定はピンホールカメラだけでなく,時間分解できるストリークカメラを用いた.弾丸が標的に衝突する時刻をレーザー照射の終了よりも後の時刻になるように設定し,レーザー漏れ光による発光と衝突の発光を区別できるようにした.実際に測定したところ,予想される飛翔体の衝突時刻の付近に標的表面でのX線発光が測定された.これにより実際に衝突によってX線が発生していることが確認できた.しかしながら,レーザー照射中にも標的表面からX線が衝突X線と同程度以上に発生しており,時間積分型のピンホールカメラの結果にはレーザー漏れ光によるX線と衝突によるX線が重なっていると考えられる.
3: やや遅れている
本研究の第一段階(衝突X線が観測できるのか)は昨年度までに確認されていたが,高出力レーザー実験はX線の観測環境という意味では大変ノイズが多く,観測されたX線が本当に衝突起源であるのか,レーザー照射によるX線ではないかという疑念がもたれるため,今年度のマシンタイムは観測されたX線が衝突由来であることの確認実験を行った.そのため,予定よりやや遅れが生じた.しかしながら,実際にレーザー照射とは別に衝突時にX線が発生していることを確認できたので,次の段階に進むことができる.
26年度はX線の光量と発生メカニズムについて調べていく予定である.引き続き,レーザーによって超高速度に加速された飛翔体を使って衝突X線の測定を行う.今後はレーザー漏れ光が標的表面を照射することによって発生したX線と衝突によるX線を区別するためにストリークカメラを使って測定を行う.弾丸速度などのパラメータを変えて実験を行う.また,エネルギーの絶対値を算出するために金に対するレーザー照射・X線強度の計測を較正実験として行う予定である.金のレーザー照射プラズマから発生する制動輻射X線の強度は理論的に計算できるので,相対的に衝突によって発生するX線強度も推定できる. これまでの得られているデータから発生するX線のエネルギ ー(および弾丸運動エネルギーからの変換率)がどのように依存しているのかを調べる.また,レーザーでなく,二段式軽ガス銃を用いた衝突実験も考えている.最近,秒速7kmを越える速度が出せる二段式軽ガス銃が日本に相次いで設置されている.これを利用し,高密度の金属など,衝突によって高圧力の発生が見込まれる弾丸を使って実験を行いX線発生の有無を測定する.これは,弾丸速度を変えるという意味と,X線のノイズが少ない環境で測定を行う,という二つの意味がある.光量が確認できれば,月面などでの衝突X線の観測可能性についても議論する.
当該年度は様々な弾丸,標的,衝突速度など,パラメータを変えて実験を行う予定であったが,測定されたX線が衝突由来かレーザー由来かを確認する実験を行ったため,実際に使用した額が当初経費として予定していた額と異なり,次年度に繰り越すことになった.次年度は弾丸,標的などの物質を変えて実験を行う.その材料費,制作費,測定のための消耗品(ベリリウムフィルターなど)に充てる.さらに,二段式軽ガス銃を用いた衝突実験を行い,これまでのレーザー実験と同様にX線を計測する予定である.このためのX線フィルム,読み取り装置の消耗品,二段式軽ガス銃を所有する機関に出張して実験する際の旅費にも充てる予定である.また,最終年度であるので,成果を発表するため国内・国際学会への参加も積極的に行いたい.
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EPJ Web of Conferences
巻: 59 ページ: 19002
10.1051/epjconf/20135919002