研究課題
基盤研究(C)
本研究は高速点火レーザー核融合において、効率的な高速電子発生の制御、並びに磁場による高速電子輸送制御の物理を探求することにより、高速点火において最も重要な課題である超高強度レーザーによる爆縮プラズマの加熱効率向上を目指すものである。レーザー照射されたターゲットがWarm Dense Matterと呼ばれる高密度低温からプラズマ状態に至るまでの間、その物性が流体現象や磁場生成を介して高速電子の発生と輸送にどのように影響するかを調べるのが第一の課題であり、高密度、低温の状態方程式の構築と、流体;シミュレーション手法によるプラズマ生成の定量的な評価を行う。また、第二の課題として、磁化プラズマと高速電子やイオンの相互作用を探求することにより、高速電子やイオンの発生と輸送の能動的制御を実現する独創的な研究展開を図る。以上の2つの課題を追求することにより核融合点火温度(5keV)の効率的達成とプラズマ物理へ寄与する事を目的とする。平成24年度は現状の高速点火実験におけるプリプラズマ生成初期の高密度プラズマの状態方程式の探求、レーザー吸収過程モデルの高精度化、爆縮プラズマの高密度化を目指したターゲットデザイン、高速イオンを利用する直接加熱型高速点火の提案をそれぞれ行った。状態方程式については高密度、低温の領域(プラズマ生成初期の密度・温度領域)に注目し、電子寄与のモデルの改良を図った。また、直接加熱型高速点火について高速電子の加熱を含む統合モデルを構築した。これにより直接加熱型高速点火の加熱効率、コア温度を評価した結果、高いポテンシャルを有することを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は研究計画に従い、4つの課題について研究を進めた。1) 現状の高速点火実験におけるプリプラズマ生成初期の高密度プラズマの状態方程式の探求を行った。状態方程式を決定づける自由エネルギーはColdパート、イオンパート、電子パートの合計で表されるが、文献調査や米国、フランス、インドの研究者との議論等を経て、それぞれのパートの高精度化を追求した。高密度、低温の状態方程式で特徴的な気体・液体の二相混合状態を扱えるようにして、現在、流体コードへの組み込みを図っている。2) レーザー吸収過程モデルの高精度化は現在進行中である。3) 爆縮プラズマの高密度化を目指したターゲットデザインについては実験結果の検討を行っている。4) 高速イオンを利用する直接加熱型高速点火については爆縮プラズマの加熱率や加熱後の温度を評価するために阻止能計算と輻射流体コードを組み合わせたモデルを構築し、加熱効率、コア温度を評価した。その結果、高いポテンシャルを有することを見いだした。以上の研究成果に基づき、本年度は概ね計画に従った研究が出来たと判断している。
2年目は一年目の課題の残りである高精度状態方程式を組み込んだ磁気流体コードによるプリプラズマ及び高速電子、高速イオンとの相互作用を探求する。また、高速電子、高速イオンの発生と輸送に関して、1次元及び2次元の粒子コード(Particle in Cell : PIC)シミュレーションと流体コードを組み合わせたハイブリッドモデルを構築する。高強度短パルスレーザーによる高速電子の発生と輸送は現在、1次元及び2次元の粒子コード(Particle in Cell : PIC)シミュレーションにより世界中で計算されており、レーザープラズマ相互作用と高速電子の発生はかなり理解が進んできている。しかし、未だに電子―電子、電子―イオン、イオンーイオン間の衝突を考慮する輸送計算は計算負荷が膨大なものになることから解析例が不十分であり、計算負荷の少ない計算法の開発が進められているのが現状である。そのため、本研究のように、高速電子の発生から爆縮プラズマ加熱までをカバーする比較的空間スケールの大きなシミュレーションにおいて衝突の効果を考慮する場合、全ての電子を粒子として扱うのではなく、エネルギーの低い部分のバルク電子並びにイオンは流体として扱う、ハイブリッドモデルが有効である。これにより計算負荷が通常のPICシミュレーションに比べ、著しく軽減される。また、バルク電子を流体として解くことで、例えば導電率やEOSなど、関連する物理との連係計算が容易になるメリットがある。
H25年度への年度繰越金282,936円は計画よりも国際会議の出席を1回取りやめたことで生じたものであるが、H25年度の国際会議費用として使用する計画である。
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Laser and Particle Beams
巻: 30 ページ: 95,102
10.1017/S0263034611000723