研究課題/領域番号 |
24550001
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田地川 浩人 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10207045)
|
キーワード | DNA損傷 / DNA修復 / 光劣化 / 反応モデル / 分子動力学 / プロトン移動 / イオン化 / 電子脱離 |
研究概要 |
微視的溶媒和クラスターは、少数の溶媒分子によって取り囲まれた分子からできるクラスターであり、溶質の周りの溶媒を部分的に切り出したナノスケールの溶液といえる。本研究課題では、ダイレクト・アブイニシオ法を、微視的溶媒和クラスター内での反応ダイナミクスの理論解明に応用した。特に、光照射後の反応を実時間で追尾することにより、微視的溶媒和の効果を理論的に予測した。2013年度は、昨年度に引き続き、以下の2テーマについて詳細な計算を行った。 (1)DNA塩基対プロトン移動反応への微視的溶媒和の効果 DNA塩基対が紫外線照射されると、水素結合に沿ってプロトンが移動し、DNA欠陥が生じ、癌化への引き金になる。DNA塩基対は数個の水分子が配向しているが、従来の研究では、この水分子の存在は無視されてきた。本研究では、DNA塩基対のモデル分子の光照射後のダイナミクスを理論的に取り扱った。特に、プロトン移動速度への微視的溶媒和の効果を解明した。まず、DNAモデル分子の周りの水分子の微視的溶媒和構造として、3つの配置を発見した。この水分子の電子供与により、DNA損傷後のプロトン移動速度が促進することを解明した。 (2)DNA損傷チミンダイマーの修復反応への微視的溶媒和の効果 DNA に紫外線照射すると DNA中の隣り合ったチミンが2量体(チミンダイマー)を生成し、2本鎖 DNAの片方の鎖に損傷が起こる。この損傷が引き金となって細胞の変異が誘発し発癌が惹起する。本研究では、チミンダイマーの修復反応のメカニズムをダイレクト・アブイニシオMD法により明らかにした。特に、修復反応の初期過程への微視的溶媒和の効果を解明した。溶媒分子の電子供与により、DNA修復反応が、加速することを解明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の当初の目標では、(1)ダイレクト・アブイニシオ・ダイナミックス法を中規模クラスター反応系をも取り扱えるように拡張すること。(2)作成したプログラムをテスト計算する、の2つ課題が、2013年度の目標であったが、課題(1)および(2)は終了し、すでに、2014年度の目標である反応系への応用が、スタートしている。さらに、(a) 電子脱離反応への微視的溶媒和の効果として、酸素分子イオンの水和錯体の光電子脱離反応の理論的解明を行い、イギリス化学会物理化学誌(RSC Advances)への公表も行った(H. Tachikawa: Electron detachment dynamics of O2-(H2O): direct ab initio molecular dynamics (AIMD) approach, RSC Adv., 4, 516-522 (2013))。 また、拡張テーマである(b)DNA塩基対プロトン移動反応への微視的溶媒和の効果 (c)「DNA損傷チミンダイマーの修復反応への微視的溶媒和の効果」が、順調に進行し、両テーマともに論文作成中である。以上のことより、「研究の目的」の達成度として「当初の計画以上に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究課題として、「SN2反応ダイナミックスへの微視的溶媒和の効果」を行う。 求核的2分子置換反応(SN2反応)は、有機反応の中の基本反応一つである。しかしながら、その動的なメカニズムについて、ほとんどわかっていない。本研究では、ダイレクト・アブイニシオ・ダイナミックス法により、ハロゲンイオンによるSN2反応:SN2反応X-+CH3Cl (X=F,OH)および、その溶媒を含む反応X-(H2O)+CH3Clを研究する。予測される結果として、(A)水分子の存在は、(たかだか1個でさえ)反応ダイナミックスへどこような影響を及ぼすか?、たとえば、反応速度の抑制効果があるか?。(B)反応生成物へ至る経路として、いくつの反応チャンネルが存在するか?(C)チャンネルの分岐比は、初期配向角により制御できるか?を理論的に予測する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の未使用額は、計算機購入がDELL社の製品販売が遅れているため生じた。本年度は、計算機発売後、すみやかに購入する予定である。 本研究の遂行に必要な設備および装置は、できるだけ現存(昨年度購入)の計算機システム(PC)および研究室の共通物品(プリンター、スキャナー等)を使用する予定である。そのため、本年度の研究の遂行に必要となる計算機は、小規模計算用のパーソナルコンピューター(PC) 1台である。 本研究で得られた成果を、国内学会および海外での国際会議で積極的に公表する予定である。そのため、申請した旅費を希望する。
|