研究概要 |
プルシアンブルー類似体AxMn[Fe(CN)6]y・zH2O (A=Rb,Cs)は、大きなヒステリシスを伴う電荷移動相転移を示す、不定比化合物である。A=Rbのルビジウム塩については、x=1,y=1,z=0およびx=1,y=1,z=1の量論組成の化合物の合成方法が知られている。本研究では、セシウム塩のx=1,y=1,z=1の組成に近い化合物の合成法を見出した。合成された化合物の物性測定を行い、結晶水の有無やアルカリ金属イオンの違いが、電荷移動相転移にどのような影響をもたらすかを明らかにし、そのメカニズムについて検討した。 オルトベンゾキノンとコバルトからなる金属錯体には、結晶状態で原子価互変異性(幾何構造が同じで電子状態が異なる互変異性)を示すものが多数報告されている。本研究では、そのうちの一つ、Co(DBBQ)2(py)2・npy (DBBQ=3,5-ジtertブチルオルトベンゾキノン, py=ピリジン)の原子価互変異性が結晶溶媒の含有量によってどのように変化するかを調べた。これまでに報告のない、n=2の結晶を新たに見出し、その結晶構造を明らかにした。選択的重水素置換した試料の固体高分解能NMR測定により、n=2.0の結晶中の分子ダイナミクスが、既報のn=0.5の結晶中におけるそれと大きく異なることを見出した。 セレノシアン酸イオンNCSeを配位子として持つ鉄(II)錯体には、スピンクロスオーバー(SCO)現象を示すものがいくつか知られている。本研究では、固体高分解能 Se-77 NMR測定により、高スピン(HS)錯体に囲まれた低スピン(LS)錯体とLS錯体に囲まれたLS錯体とを判別できるか(キャラクタライズできるか)を検討した。現時点では、異なる環境にある錯体のキャラクタリゼーションまでには至っていないが、HS錯体とLS錯体のNMRシグナルが、比較的短時間の測定で判別できることを明らかにし、SCOダイナミクスについて議論した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、(1)電荷移動錯体、(2)SCO錯体、および(3)原子価互変異性錯体の、NMR測定による格子欠陥のキャラクタリゼーションを実施する。 (1) については、1H-, 2H-, 87Rb-, 133Cs- NMR スペクトル測定により、相転移が起こる条件と不純物の関係を調べる。 (2) については、77Se-NMR測定を他のSCO錯体にも応用し、状態分析法を確立する。 (3) については、研究題目からは若干それるが、本年度の研究遂行中に見出した ある現象を応用して、新規原子価互変異性錯体の合成も試みる。
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