研究実績の概要 |
近年、化学反応のコヒーレント制御や、分子の電子・振動状態を量子ビットとして用いた量子コンピューティングなど、原子・分子の波動関数を直接制御しようとする試みがなされている。これらの量子制御を実現するにあたって、原子分子の波動関数がどれだけ長い間コヒーレンス(可干渉性)を保持できるかが重要となる。したがって、コヒーレンスが失われてゆく過程(デコヒーレンス(位相緩和))のダイナミクスの解明、さらにはその抑制が必要とされている。我々はこれまでに、分子の波動関数のコヒーレンスを最もシンプルに測定・制御する手段として、光学位相が制御されたフェムト秒ダブルパルス励起による波束干渉法を開発してきた (S. Sato et al., J. Phys. Chem. A 107, 10019-10025 (2003))。 コヒーレントな量子制御において重要な研究課題である溶質ー溶媒間の相互作用に基づくデコヒーレンス過程の計算化学的研究を前年度より継続しておこなった。溶質ー溶媒間の相互作用の揺らぎを調べる計算ツールとして分子動力学法を用いた。分子動力学法を習熟するために特殊構造を有する幾つかの熱応答性高分子(トリエチレンオキシド側鎖を有するポリイソシアネート、星型・環状ポリイソプロピルアクリルアミド、星型ポリエチレングリコール)水溶液の脱水和過程の研究に取り組んだ。これらの研究成果についてPacifichem2015を含む幾つかの国際学会・シンポジウムで報告をおこなった。
|