研究課題/領域番号 |
24550005
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
島崎 智実 独立行政法人理化学研究所, 量子系分子科学研究チーム, 研究員 (40551544)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 第一原理理論 / 水素量子効果 / DFT / プログラム作成 |
研究概要 |
本研究では、現在のスタンダードなDFT理論では取り扱われていない、分子中に含まれている水素原子(プロトン)の量子効果に注目して研究を行っている。現在、広く用いられている密度汎関数理論ではBorn-Oppenheimer(BO)近似に基づき水素(プロトン)の量子効果は無視されている。共有結合のような強い相互作用だけでなく、水素結合のような弱い相互作用の取り扱いが重要である。しかし、現在のスタンダードなDFT理論やab-initio量子化学理論では水素(プロトン)の量子効果は取り扱っておらず、そのため弱い相互作用を扱うために、水素(プロトン)の量子効果を効率的に扱うための手法開発は非常に重要である。本研究では、タンパク質等の生体分子や凝集系中に現れる水素の量子効果を高速かつ簡便に扱うためのab-initio理論・アルゴリズムを確立させることを目標としている。 今年度では、水素の量子効果を簡便に第一原理の枠組みに取り込むための理論を、独自に開発を行ってきたC++プログラムに組み込み、周期境界条件のもとでも計算が可能になるようにプログラムの拡張を行った。さらに、汎用的な量子化学計算プログラム「NTChem」にもプログラムを組み込んだ。加えて、産業技術総合研究所の石橋グループリーダーと共同で議論・研究を行うことにより、石橋グループリーダーが中心となって開発している平面波第一原理プログラム「QMAS」にも水素量子効果理論を組み込んだ。これらの研究により、ガウス基底、平面波およびガウス基底に基づいたバンド計算プログラムにおいても水素の量子効果を取り扱うことが可能となった。 さらに、本理論の有用性を周知させるために、現在開発しているプログラムをGUIから利用することを目指した調査研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、凝集系(周期境界条件)を扱うための手法に本理論を組み込み、凝集系中での水素の量子性を調べることを計画していた。そこで、GFT理論と水素量子効果理論を組み合わせて用いることができるプログラムを作成し、テスト計算を行ったところ、水素の量子効果を調べるためには、より局在した基底が望ましいことが分かった。GFT法と水素量子効果理論を組み合わせることによって当初の計画は概ね達成可能であるが、より詳細に調べる、局在性の強い基底の場合にも適用可能な第一原理周期境界法と水素量子効果理論を組み合わせることも必要だと考えられる。そこで、補助基底として、平面波の代わりにガウス基底を用いた手法と水素量子効果理論を組み合わせることを考えた。実際にプログラムを作成し、検証を行ったところ、補助基底としてガウス型関数を用いたものは水素量子効果を良好に取り込むことができることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
作成したプログラムを用いると、凝集系中での水素量子効果を含む第一原理計算が可能であり、電子状態やバンド構造を詳細に調べることが可能である。今年度のプログラム開発では、周期境界条件下での水素量子効果理論を含むgradientを作成することを中心課題として据えている。gradient 法を開発することにより、より広汎な水素量子効果を含む分子のプロパティ計算が可能になると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は所属が東北大から理研・計算科学研究機構に異動になったため、購入を予定していた計算結果を解析するためのコンピュータの購入を見送った。このような理由により、次年度使用額が発生した。ただし、購入の見送りによって研究計画に大きな影響はない。本年度は、昨年度に購入を見送った計算結果の解析のためのワークステーションもしくはコンピュータの購入を行うとともに、研究成果を広く周知するために国内外での学会発表や論文発表を行う費用のために研究費を使用する予定である。
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