研究課題
平成25年度は、昨年度に引き続き装置の開発を中心に行った。未知のキラル分子の回転スペクトル探査には、効率良く周波数引掃を行う事が不可欠である。そのため、コンピュータ制御されたマイクロ波シンセサイザー(平成24年度に購入)の周波数引掃に追随し、共振条件を満たすようにマイクロ波共振器(平成24年度に作製)を自動調整する機構を組み入れた。この機構により、数GHzに及ぶ広い周波数領域において、任意の周波数ステップで共振条件を保持した状態で自動引が掃可能となり、スペクトル探査を効率良く行えるようになった。コンピュータ制御プログラムには、ナショナルインスツルメンツ社のグラフィック型言語であるLabVIEWを用いた。この言語は、制御用として広く使われているVisual C++等と比較しても、ハードウェアの更新に伴うプログラムの修正が容易な事が特徴である。超音速分子線のガス噴射のパルスと励起用のマイクロ波パルスのタイミングを自在に制御するシステムを完成した。これら2つのパルスのタイミングは、超音速分子線に用いるキャリアガスの種類によって、その最適値は大きく異なる。常に最適の条件が得られるように、コンピュータ制御によって、1マイクロ秒の精度で2つのパルスのタイミングを制御可能にした。これにより様々な種類のキャリアガスに対応できる。また、微弱な信号の観測には、自由誘導減衰信号の積算が必要である。積算を行うためには励起マイクロ波の位相と、オシロスコープへのデータ取り込みのトリガーパルスの位相の関係が一定でなければならない。パルス信号発生器と任意波形発生装置(平成25年度に購入)を組み合わせて用いる事で、位相の安定化を図った。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、前年度に引き続き、キラル分子の純回転遷移の観測、更に分子とマイクロ波とのコヒーレント相互作用によるエナンチオマー間異性化反応の制御を実現する目的で、超音速分子線装置と組み合わせたフーリエ変換マイクロ波分光装置の開発を進めてきた。分光装置は、目的の性能を備えた分光器として機能するレベルに達したと考えている。実際に平成25年度中に、装置の試験運転として、超音速分子線中のOCS分子の純回転遷移の観測に成功した。周波数引掃と観測データの保存記録が問題無く行え、更にスペクトル分解能と遷移周波数の読み取り精度に関しても設計どおりの性能が得られていることを確認した。
平成25年度までに完成した超音速分子線フーリエ変換マイクロ波分光装置に関する更なる改良点として、励起マイクロ波とデータ取り込みの為のトリガーの2つのパルスの位相に生じる小さな揺らぎを制御する事が挙げられる。この揺らぎは、数十分の時間にわたる積算を必要とする測定において問題となってくる。励起マイクロ波のビート信号を利用することで位相の安定化を行うなどして、問題の解決を図る。分光装置の高感度化を実現し、キラル分子の純回転遷移の観測と、コヒーレント相互作用による異性化制御の実現を目指す。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
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