マイクロ波領域の電磁波と分子のコヒーレント相互作用を利用したキラル分子の異性化制御への応用を目指した分光装置の開発に取り組んだ。この手法では、コヒーレント相互作用中に分子同士が無衝突の環境にある事が重要である。これを実現するために超音速分子線装置を開発して、それをマイクロ波共振器と組み合わせる事でフーリエ変換マイクロ波分光分光装置を製作した。平成25年度までに分光装置の基本的な部分の開発を終え、最終年度の平成26年度は更に感度向上を目指した改良を行った。具体的には励起マイクロ波パルスの位相に対して、自由誘導減衰信号の位相を10-9秒の精度で安定化させる事に成功し、検出感度を大幅に向上させることができた。装置の検出感度として、天然同位体存在度が0.047%のOCSの同位体種のJ=1-0の純回転遷移を、15分程度の積算時間で観測できる事を確認した。本装置は、分子の分布をエネルギーが最低の量子状態に集中させる事でも高感度化を図っている。実際超音速分子線を用いる事によって分子を数ケルビンの極低温に冷却できる事を確認しており、冷却効果の確認としてAr-OCSの分子クラスターの純回転遷移の観測にも成功した。波長掃引は完全に自動化されており、未知分子の回転スペクトル探査を効率良く行えるように工夫した。 本研究で対象とする分子は、分子内異性化の障壁が小さい分子内大振幅振動を持つ分子である。そこで、得られた分光データに対して、分子間あるいは分子内振動ダイナミクスを直接考慮する解析手法も開発した。この解析手法は、赤外分光データやマイクロ波分光データの同時解析から、精密な分子間ポテンシャルを決定するものである。また、解析のハミルトニアンは核スピンに由来した超微細相互作用も考慮しており、回転スペクトルの超微細構造の情報を利用して分子間ポテンシャルを決定するという新しい手法である。
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