研究課題/領域番号 |
24550008
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
高柳 敏幸 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90354894)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 反応動力学 / 放射線損傷 / 電子衝突 / 量子動力学 / 電子状態理論 / 共鳴アニオン |
研究概要 |
本年度は当初、DNA関連分子の共鳴負イオン状態の複素共鳴ポテンシャルエネルギー曲面の関数を開発する予定であったが、電子状態計算が思ったより難しいことがわかったため、多少計画を変更して、リングポリマー動力学法による実時間量子ダイナミクス理論の構築とそのコード開発を前倒しして行った。 研究対象として放射線照射によるDNA損傷の前駆体となりうる水和電子の電子励起状態の緩和過程を取り上げた。具体的には、有限個数の水分子と過剰電子からなるクラスター系を考え、余剰電子の運動を3次元の量子波束法で取り扱い、水分子の核の運動をリングポリマー法で取り扱う新しいハイブリッド型理論を構築した。この方法を、余剰電子が球状のs状態から分極したp状態の電子励起状態にしたときの実時間緩和過程に適用した。得られた結果を核の運動を古典的に取り扱った場合の結果と詳細に比較した。その結果、核を量子的に取り扱うと水のライブレーション等の運動が早くなり、短い電子緩和時間を与えることが分かった。このことは、Borgisらによって行われた過去の相関関数の摂動理論計算とも一致する。また、米国NeumarkらのH2OクラスターとD2Oクラスターの実験結果とも定性的に対応する。彼らの実験結果によると、H2Oクラスター中の電子緩和時間がD2Oクラスターのそれよりも約2倍ほど短くなっていることがわかる。これらの結果から、我々の新しい実時間量子シミュレーション法によって、水和電子のダイナミクスにおける核の量子効果の重要性を指摘することができたと考えている。この研究成果は本年度中に論文にまとめ、Chemical Physics Letters誌に投稿し、すでに掲載されているが(CPL564,15(2013))、投稿論文中のトップ5%に入る研究成果であると評価され、Editor's Choiceに採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、DNA関連分子の共鳴負イオン状態の共鳴ポテンシャル関数を作成するための電子状態計算を行う予定であったが、この計算は分子が複雑なため、うまく計算できなかった。しかしながら、比較的簡単な分子(H2O,CF3Cl)では順調に計算でき、論文として発表できた。次年度は、電子状態理論の専門家と情報交換しながら、DNA関連分子の計算を成功させる必要がある。しかしながら、前倒しして行った量子ダイナミクスの研究が進展したことは特筆に値する。電子波束計算とリングポリマー分子動力学法を組み合わせた理論を構築し、水アニオンクラスター系に適用したところ、核の量子性について重要な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度は共鳴負イオンの電子状態計算がうまくできなかったので、2013年度は外部の研究者と綿密な情報交換を行い、当初の目的を達成するのが予定である。幸い、国際ワークショップ等に参加するので、豊富な情報交換の機会がある。特にDNA分子系ではπ電子を有するため、特別な取り扱いをする必要があるだろうと思われる。 また、前倒しして行った量子ダイナミクス理論構築が予想外に進展したので、この方法をさらに新しい反応に適用する予定である。具体的には、DNA関連分子では、電子付着した後、プロトン移動反応を起こすことがわかっているので、このダイナミクスについて我々が開発した理論方法で取り扱い、ダイナミクスにおける核量子性の効果について詳細に検討を行う予定である。また、前年度に引き続き、同じ理論を分子数の異なる水クラスターへ適用することも行い、同時に同位体効果についても研究する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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