研究課題/領域番号 |
24550010
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮島 謙 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (20365456)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | クラスター / 反応性 / 化学量論 / ジルコニア / セリア / 質量分析 / レーザー蒸発 |
研究概要 |
本研究の目的は金属クラスターと酸化物クラスターの複合体を気相生成し反応性を調べることで、組成依存性の結果から白金代替触媒などの実用触媒を設計する際の指針となる知見を提供することである。本年度は酸化物クラスターのうち、触媒の担体としてよく用いられるセリアCenO2n+x+およびジルコニアZrnO2n+x+の気相クラスターをそれぞれCeO2およびZrO2のレーザー蒸発によって生成し、COおよびNOxガスとの反応性を質量分析法によって調べた。どちらの場合も化学量論比より酸素が極端に少ないクラスターがCOガスからも酸素を取り込むことがわかった。酸素欠乏CenOm +は、CO・NOとの反応でn:m=2:3まで、O2との反応では1:2まで酸化されることがわかった。一方、酸素欠乏ZrnOm+は、COとの反応でZrnO2n-2, 2n-1+が残り、O2との反応でZrnO2n, 2n+1+が残った。さらにCOとNOxガスの混合比を10:1から1:10に変化させることによって還元雰囲気から酸化雰囲気にするに伴い、酸素原子数の多いクラスター(Zr7O16+)が増加し、少ないクラスター(Zr7O12+)が減少することを示すことができた。これはNOによるCO酸化反応が化学量論比付近のZrnOm+の表面において進むことを示している。 また、ロジウムとセリアの複合体について、COガスの添加による酸素の原子数の変化がロジウムの原子数によって異なっていることを見出した。これは酸化物とロジウム金属のどちらに酸素原子が属しているかによってCO酸化反応に使われるか否かが決まっているためと考えられる。上記のように、複合クラスターの酸素原子数が反応させるガス組成によってどのように変化するか調べ、金属と酸化物の種類によって、その組成変化の幅や反応性の違いの大きさがどのように変わるか基礎的な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
触媒で担体として用いられている酸化物の反応性を、気相クラスターの実験手法で測定することができた。酸素濃度依存性および加熱による安定性の確認を測定することで、組成ごとの反応性の違い一度に調べることが可能であることを確かめることができた。さらに複合クラスターについてはロジウム-セリアの組み合わせに注目して進め、酸素付着数ごとの反応性の違いを示すことができた。これらは白金代替触媒の探索に有用な情報であり、初年度の目標のおおかた達成したと考えている。未達成な項目としては電荷による反応性の違いの議論が挙げられる。正イオンの質量スペクトルによる実験を主に行ったが、中性のセリアクラスターの光イオン化を試みたところ、酸素欠乏セリアクラスターについてはF2レーザーの7.9 eVでイオン化が可能であることがわかった。化学量論組成のクラスターはイオン化エネルギーがそれより高いことがわかったため、電荷の有無による比較は一部の組成でのみ可能であることがわかった。今後は光イオン化が可能な中性クラスターの反応性実験を併せて議論できるようにする。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度は触媒-担体クラスター複合体の反応性実験およびその中で有望な組成のクラスター複合体に対する詳細な測定(加熱温度による反応性・生成物の変化)およびイオン化エネルギー測定など)を行う。具体的にはH24年度に見出したセリアとジルコニアの酸化物クラスターの組成による酸化還元能の違いを利用して、複合クラスターについて組成による酸化還元能の違いが付着させる金属元素の種類と原子数でどのように変化するか調べることから始める。次にセリウムと同じランタノイドでありプラセオジムの酸化物についてもその酸化還元能を実験によって調べ、さらに複合クラスターにした際に比較対象とする。反応ガスとしてはCOとNOのバランスの異なる混合ガスを用いる。現在の装置において混合ガスの調製を簡便に行えるよう、H24年度に入手した圧力ゲージを活用する。また測定の自動化を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
より安定で十分な強度のクラスターが生成できるように、クラスター生成部の設計の変更を行うこと、およびより多くの種類のクラスターを測定対象にすることに重点をおいて研究費を用いる。前者では特に、気相での触媒反応のサイクルを確認する方法として、生成した分子の脱離が起きやすい組成が高い触媒活性を発揮していると考えられることから、クラスターの加熱実験についての改良を行う。後者ではH24年度に見出したロジウム-セリアの系に引き続き、酸化還元の振る舞いが異なることがわかっているジルコニアと組み合わせた場合の条件検討から始め、異なる貴金属を用いた場合の違いについて酸素の活性化がどの場合に容易であるかに注目して高い触媒活性を発揮しうる系を探索する。また中性クラスターの光イオン化の光学系を改善し、より再現性のある測定を可能にすることで今まで困難だった生成量の少ない複合クラスターの情報を得ることを目指す。
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