触媒で担体として用いられている金属酸化物の化学反応性を、気相クラスターの実験手法を適用して調べた。まず酸素原子数の化学量論組成との差に着目し、各種反応ガスとの化学反応性を組成別に求めた。具体的には酸素が欠乏したセリアクラスターの場合、CO2、CO、NOの場合はCe:O=2:3の組成比まで、O2ガスとは1:2までクラスターは酸化されることが分かり、これは分子内の結合エネルギーとクラスターの酸素親和性の大小で説明することができた。 クラスターに含まれる酸素などが、どの程度加熱すると外れるかを組成別に同時に調べるため、気相昇温脱離法(TPD)の確立と適用範囲の拡充を行った。気相生成したクラスターの加熱処理は、当初約600 Kが上限であったが、断熱部材の設計改善により高温の1000 Kまでの測定を可能とした。同位体分布や近い質量が多く混在する複雑な質量スペクトルを数値的にデコンボリュートする分析手法を実装した。これにより今まで解釈が困難であったNとOやH2Oなどの付着物が共存する場合における組成の分離を可能とした。銅酸化物クラスター、マンガン酸化物クラスター、鉄酸化物クラスター、パラジウム酸化物クラスター、セリア酸化物クラスター、ジルコニウム酸化物クラスター、パラジウム水素化物クラスター、イリジウム窒酸化物クラスターについて、加熱による分子の脱離を観測した。各組成の生成量の温度依存性の解析から脱離の活性化エネルギーを算出したところ、500K以下の比較的低温で外れる酸素は1 eV以下、1000 Kまでで外れる酸素は2 eV程度であることが分かった。この手法は、クラスター内で弱く結合した部分構造について情報を与えることから、クラスターの化学反応性を議論するために有用である。
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