研究課題/領域番号 |
24550016
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝臣 信州大学, 工学部, 准教授 (20196835)
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キーワード | 結晶成長 |
研究概要 |
これまでに人工水晶の単結晶面の表面自由エネルギーを測定してきた。水晶の成長面では成長丘が多数存在し、凹凸が見られ、表面自由エネルギーは非常に分布が広く標準偏差が5mN/mほどである。これは理想的な平面だけでなくステップを多数含んだ面を見ているためであり理想的なテラスの表面自由エネルギー密度にステップ自由エネルギーが加算されていると考えた。そこで25年度は水晶の研磨面を作成し成長面との比較を行った。研磨面においては表面自由エネルギー密度の分布が狭く、標準偏差は2mN/mほどであった。さらに水晶の典型的な成長面であるZ面とY面での表面自由エネルギー密度の平均値がそれぞれ45mN/m、47mN/mとなり、ほぼ同様な値であったが、研磨面ではそれぞれ22mN/m、82mN/mとなり大きな違いを示した。これまでに、人工水晶の単結晶において結晶面の成長速度が表面自由エネルギー密度に比例するというウルフの関係を仮定して議論を進めてきた。しかし、成長面での表面自由エネルギー密度に大きな差がないこと、さらに表面自由エネルギー密度の分布が非常に大きいことから人工水晶のように大きな単結晶でウルフの関係が満たされることに疑問が持たれてきた。しかし今回、研磨面で表面自由エネルギーの大きな差が確認され、人工水晶のように大きな単結晶でもウルフの関係が満たされることを仮定して議論をすることが可能になった。 またルビーの人工結晶を用いて表面自由エネルギー密度の分布を詳細に検討し、この分布が正規分布であることを確認した。信頼性のある表面自由エネルギー密度を得るために必要な実験回数の算出のための手法を確立できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶成長において表面自由エネルギー密度と結晶面の成長速度との比例関係はウルフの関係として広く知られている。しかし、このウルフの関係は理論的な議論のみで表面自由エネルギー密度の実測はほとんど行われていないのが実情である。一方コロイド界面化学分野においては古くから表面自由エネルギー密度の実測が行われている。当研究者はコロイド界面分野での実験手法を結晶面に応用し、表面自由エネルギー密度に関しての議論をしてきた。結晶成長分野では結晶の表面自由エネルギー密度の測定は不可能であると長期にわたって信じられてきた。そのため研究初期の段階では結晶成長分野の専門家から当研究者の研究結果は受け入れられなかった。24年度、25年度と結晶成長関連の学会に参加してきたが、当研究者の研究成果は次第に結晶成長分野の専門家に注目されるようになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標である結晶表面での線張力の研究のために、ステップ自由エネルギーの定量的評価を行う。そのためには人工結晶表面においてステップ密度をコントロールする必要がある。現在アルミニウム片の引張り試験を行い、塑性変形に伴う表面自由エネルギー密度の変化を観測しているが、それに並行して、方解石の劈開面の再成長に伴う表面自由エネルギー密度の変化を観測する。方解石表面の再成長により理想的な平面であるテラス面の表面自由エネルギーを測定し、ステップ密度をコントロールした面との比較よりステップ自由エネルギー密度を求める。ステップ自由エネルギー密度も線張力も同じ1次元のエネルギー密度である。水と油のような液-液界面から線張力の評価を行う。 また現在タンパク質単結晶の合成を行っているがタンパク質単結晶は大気中に取り出すことが出来ない。そのため結晶の表面自由エネルギー密度の測定には液-液界面との接触角を用いる必要がある。これまでに大気中で表面自由エネルギー密度の測定を行ってきたアパタイトやルビーの単結晶を液-液界面に投入し接触角を測定する。アパタイトやルビーの表面自由エネルギー密度を液-液界面接触角と比較しタンパク質単結晶の表面自由エネルギー密度の評価に備える。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初購入を予定していた人工水晶結晶を日本電波工業(株)より無償で提供されたため。 シリコン単結晶などの研磨し、様々な指数面を得の加工代として使用予定。
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