本研究課題を通して、イオン液体の粘性係数とイオン伝導度の関係を、粘性緩和・交流伝導度測定から得られる緩和時間の観点から解析した。イオン種や温度を変化させたとき、粘性係数・直流伝導度は、対応する緩和時間とそれぞれ比例・反比例の関係にあり、輸送係数の変化は緩和時間の変化で概ね説明できる。低粘性のイオン液体では粘度と伝導度の緩和時間が概ね一致するが、粘度の増加に伴い、粘性緩和時間が伝導度の緩和時間より遅くなる傾向が見られ、両緩和時間の違いがワルデン積の増加の原因となっていることが示された。中性子準弾性散乱から決定された構造緩和時間と比較すると、低粘性状態では粘度・伝導度の緩和時間はイオン基間の距離に対応する微視的な構造緩和時間と一致するが、粘度の増加と共に構造緩和の方が両輸送物性に関わる緩和より速くなるという、過冷却液体で理論的に予測されたデカップリングが見られ、高粘性のイオン液体のダイナミクスは過冷却液体との共通性を有していることが明らかとなった。 平成26年度においては、上記の研究のうち、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムイオン液体の粘性緩和・交流伝導度の温度依存性を測定し、山室らによって報告されている中性子準弾性散乱との比較により、構造緩和と輸送物性に関わる緩和との間にデカップリングが存在することを示した。また、リチウムイオン電池の電解液の典型的モデルでもある六フッ化リン酸リチウムの炭酸プロピレン溶液について、イオン液体と同様の粘性緩和・交流伝導度測定と共に、中性子準弾性散乱も行ったところ、低温で構造緩和が粘性緩和より遅くなるという逆方向のデカップリングが観測され、イオン液体のダイナミクスは高濃度電解質溶液とは異なる特徴を有していることが示された。
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