研究課題/領域番号 |
24550022
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 武志 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30397583)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 化学反応 / 励起状態 / 溶媒効果 / ダイナミクス / 統計力学 |
研究概要 |
凝縮相における光化学反応やそれに伴う励起状態ダイナミクスを分子シミュレーションで調べるための新しい理論的手法の開発を行なっている。溶液やタンパク質中の光励起反応を調べるための方法としていわゆるQM/MM法(反応系の電子状態を量子力学的に扱い、環境を分子力場で扱う)があるが、実際の応用では2つの大きな技術的問題が生じる事が知られている。一つは電子状態理論の精度とコストの問題である。励起ポテンシャル面の形状や状態交差を記述するには多配置・多参照の理論を使うのが望ましいが、計算量の問題から、信頼性の低い電子状態理論が使われることが多い。もう一つの問題は統計サンプリングの必要性である。励起状態ダイナミクスは周囲のミクロな環境(溶媒やタンパク質)の微視的状態に依存するが、実験結果と比較するためにはそのような状態に関して統計サンプリングを行うことが不可欠である。上の2つの事は、励起状態ダイナミクスの理論的取り扱いを非常に計算コストの高いものにしている。本研究では、この問題に対処するため次の3つの新しい方法を研究している:(1)MM環境の応答を動的平均場近似で扱うことで、電子状態計算の回数を大幅に減らすための方法(反応系と環境のカップリングに対する時間依存ハートリー近似に対応)。(2)励起状態から基底状態に復帰する電子緩和のダイナミクスを出来るだけ少ない計算量で追跡するための方法(状態チェインの方法を非断熱過程に拡張する試み)。(3)凝縮相中の非断熱電子移動反応を効率良く調べるための新しいQM/M法の開発。本年度は特に(1)と(3)のための研究を行った。特に(3)について、MM静電場を拘束したQM/MM自由エネルギーを計算するための新しいアルゴリズムを分子動力学プログラムに実装し、その数値的特性について調べた。また、それらを実際の系に応用するための予備的研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は、前年度までに行なっていた電子基底状態の反応に対するQM/MM自由エネルギー法の研究(博士課程の学生と共同で行っているもの)がずれこんだため、電子励起状態に対する研究がやや遅れている状況にある。動的平均場の方法については、凝縮相のモデル系についてテストを進めているが、当初予想していなかったいくつかの問題点が明らかになっており、それを克服するための方法を現在検討中である。一方、溶液内非断熱電子移動反応ついては、活性化自由エネルギーをQM/MM法で計算するための新しい方法論の開発が進んでおり、分子動力学プログラムへの実装まで含めて一定の進展が得られている。これらの方法を応用計算に展開することは本年度以降の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に研究計画に記載の通りに進める予定である。「現在までの達成度」に記載の通り、進展がやや遅れているため、平成25年度は主に、方法論の基本的な枠組みのテストやプログラム実装、数値的振る舞いの検証、および応用のための予備的計算を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は方法論開発に必要となる計算機を購入したが、応用計算は平成25年度以降となる見込みになったため、メモリやSSDなどより大きな系の計算に必要となる追加パーツの購入は平成25年度以降に行うことにした(最新の物がより安価で性能が高いため)。そのため、平成25年度は予定されていた物品の購入に加え、そのようなパーツの追加購入を行う予定である。
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