研究課題/領域番号 |
24550024
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川上 貴資 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30321748)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | グラフェン / 酸素吸着 / スピントロニクス / 磁性 / 強相関電子系 / 分子軌道法 |
研究概要 |
単層グラフェンに気体分子を積極的に曝露して、そのグラフェンの電子物性の変化を理論計算にて解析するために、酸素分子をグラフェンに吸着したときの影響を調べた。まず、(1) 酸素分子の吸着構造の解析に関して注力して、特に、(a)グラフェンの表面への吸着を取り扱う。 これらの計算では、酸素分子を扱うためにその量子化学計算では電子スピンの考慮が必要であり開殻計算を行った。また、分子間距離(グラフェンの炭素原子と酸素分子の酸素原子)が約1.5Å前後の化学吸着領域であり、開殻計算に特有なスピンコンタミネーションを取り除くのことが必須である。これらに関しては、現在までの我々のスピン射影(AP)法により改善が図られており、より正確な計算が実行可能である。具体的な計算では、無限サイズの単層グラフェンを分子軌道計算をするには困難であるし、周期境界条件やバンド計算でのアプローチでは、酸素分子との近接的な相互作用に関しての情報が欠落してしまうので、大胆にモデル分子を採用して計算を行った。そのためには、最も簡単なπ共役芳香族分子としてベンゼンをまず採用して、電子相関が十二分に取り込んだ計算手法を行い、その構造最適化により化学吸着した状態での構造を探索した。また、ここでの構造歪みは安定化に大きく寄与するが、無限系グラフェンとの結果の解離を補完するために、ナフタレンやピレンやフェナレニルなどの分子でも、構造歪みに関して議論した。特にフェナレニルに関しては、ラジカルであるために、スピンとの関係でも興味深い。最終的には、どの効果が酸素分子存在下でのグラフェンの電子物性を変化させているかを探究した。酸素分子とグラフェン間の分子軌道の相互作用や、酸素分子のスピンの影響なども解析した。吸蔵分子として窒素分子などで比較計算を行い、酸素分子の特異性を見極めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単層グラフェンに関しては、非常に興味深い電子物性が期待されており、とりわけ次世代のエレクトロニクス材料として期待されている。さらに、炭素構造がナノメータスケールの微少素片になった場合には、磁性スピンの局所磁性が生じることで、よりスピントロニクスの分野での活躍が期待される。これらの系に関して、申請者は、そのチューニングの強力なアプローチの一つとして、グラフェンに気体分子を積極的に曝露して、そのグラフェンの物性(光学物性・電子物性・磁性)を測定する研究に着目して、それを分子軌道法でアプローチを強力に実行することができた。 このプロセスの第一歩として、「(a)表面への吸着」を本年度は実行した。その結果として、グラフェンを簡略化したモデル分子(芳香族炭化水素)の幾つかで、酸素分子(三重項・一重項)の吸着や、相互作用を成功裏に解析した。軌道相関図による定性的議論や、定量的な分子軌道法計算で、十二分に解析した。また学会発表等に結果を積極的に公開した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、初年度と同様に酸素分子の吸着構造の解析を行うが、吸着の別の可能性を探るために、(b)有限サイズのグラフェンでのエッジ部位への吸着に関して取り扱う。 エッジ構造は様々な形(...C, ...C-, ...C-H等)で存在し、特にスピン源に関して性質が異なる。エッジスピンと酸素分子の三重項スピンの相互作用を含めて我々の開殻系での分子軌道法計算手法を適用していく。先の榎グループでの実験結果では、酸素ガスを入れたり抜いたりすることでのグラフェンの電子物性変化の完全な可逆性が報告されているので、この事実が我々の計算結果を評価する上での良い指標となる。そこで、特に可逆性の観点で我々の計算結果の吟味を進めていく。 加えて、吸着の別の可能性に関して解析する。特に、(c)生じてしまった炭素原子の欠陥に捕捉されてしまう可能性に関して取り扱う。この様な欠陥は、炭素原子の6員環からなるハニカム構造の一つの結合が組変わるった5+7員環構造、またはホウ素・窒素原子などに置換されたヘテロな箇所として、炭素原子が抜けてしまった穴として、等いろいろな原因で生じる。これらに関して、酸素分子を接近させた状態からの分子軌道計算を行い、その反応経路を解析する。酸素分子が解裂して一方の酸素原子がこれらの欠陥に補足され、残った酸素原子がラジカルとなる可能性を探る。 以上の研究期間では酸素分子の吸着機構が(a)(b)(c)のいずれであるかを理論的に決定するのであるが、実験的なアプローチからの知見を得るために、榎敏明教授(東工大)や武田定教授(北大)から助言を頂く。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では、グラフェンのエッジ効果を議論する。そのためには、微少素片を扱うがそのクラスターサイズが結果に影響してくる。そこで可視化を容易にすることと分子動力学的な計算を補助的に用いる。そこで、可視化装置を購入する。また、当研究室で有している可視化および分子動力学計算プログラム「Material Studio」をこの上で動作させる。また、計算能力の増強が必要であるので、前年度に購入した計算機に加えて高性能並列計算機を追加購入する。
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