研究課題/領域番号 |
24550029
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
藤本 斉 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (30183932)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 電子状態 / グリーン・エレメント / 軌道放射光 |
研究概要 |
単結晶試料を成長させるために高真空下での加熱装置と排気装置を導入した。装置に必要な電気設備が設置予定実験室に備わっていなかったため,別途配線工事後,稼動テストを行った。また,冷却水が必要であるが,実験室には井水のみの給水であったため,環境への負荷軽減と装置の汚染防止を考え,次年度導入予定であった冷却水循環装置を今年度導入することとした。このため,今年度予定していた研究計画の一部を次年度以降に移すことにした。 粉末試料と薄膜試料を使って,今後の研究を推進する際に必要となる試料評価のための基礎データの収集を行った。評価には,試料を非破壊で測定が可能なラマン分光法を用いることにした。薄膜試料では,鉄ジシリサイドに特徴的な振動が観測されるのに対し,微結晶粉末試料ではピークは一切観測されなかった。この化合物は空気中で速やかに表面が酸化されることが知られている。ラマン測定の結果は表面酸化膜によるものであると考えられるが,試料形状により酸化膜の状態が異なることも示唆している。表面の酸化状態の試料形状依存性については,今後の検討課題である。一方,粉末試料については,水酸化ナトリウム水溶液に室温下で浸すことにより表面酸化膜を除去可能であるが,空気中に戻すと速やかに再度酸化されることを見つけた。通常の酸化膜除去方法である高真空下900℃程度で加熱後アニールを行うという操作に比較し,今回の方法は単純かつ安易な除去方法である。 電子状態研究については,佐賀大学シンクロトロン光応用研究センターとの共同研究として推進するため,打ち合わせと予備実験を行った。最初に焼結多結晶試料において励起光依存を測定し薄膜試料の結果と比較すること,次に単結晶試料により光電子放出の角度依存を測定することをとした。焼結試料作成のために焼結温度とそのごの処理などの条件設定を現在行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
装置を設置した実験室の環境整備と環境への配慮から次年度導入予定の冷却水循環装置を先に導入したため初年度の研究計画を変更した。今年度は,試料の基礎データ収集に努め今後測定する試料の評価のためのデータを得ることとしたため,当初の予定よりも遅れている。 一方,試料の形状によって表面酸化膜の状態が異なる可能性を示唆するデータも得ており,今後検討するべき課題も見つかっている。X線による解析などを考える必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
焼結体作成のための条件設定と各種測定を行うとともに,作成試料の履歴依存を調べることを並行して行う。また,今回浮上した試料形状にともなう表面酸化膜の状態についてX線測定による解析の可能性を調べる。試料の評価は,非破壊で測定可能なラマン分光法を用いる。微結晶は高い硬度を持ち,焼結試料作成時の粉砕と仮成型の方法を考える必要がある。微結晶試料の粉砕および成形,焼結方法について鉱物関係の研究者と相談することも視野に検討する。 軌道放射光を利用して価電子帯の構造を共鳴および一定始状態光電子分光法により調べる。様々な条件下で作成した焼結試料による結果を薄膜の結果と比較検討することにより,履歴や表面状態と価電子構造の関係を調べる。次年度は,今年度未実行分も含めて多めにマシンタイムの要求をする。試料作成の条件による価電子状態を調べるため,ガスフロー装置と常時低真空で稼動可能な排気装置を次年度予定通り導入する。条件によっては,金属的な試料が得られる可能性がある。金属相と半導体相の電子状態を比較することにより,バンドギャップを生じる要因についても検証する。 次年度の終わりに最終年度に向けた研究の中間総括を行うとともに,最終年度の実施に向けて佐賀県大学シンクロトロン光応用研究センター担当者との打ち合わせを綿密にすることにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度計上している加熱装置への冷却水循環装置を先に導入したため,予算枠の組み換えを行った。今年度予定していた軌道放射光を利用した実験経費および実験補助のための費用と消耗品費の一部をこれに当てた。結果として少し残予算を生じたが,次年度計上していた循環装置の費用とともに軌道放射光を利用した実験経費や研究補助および消耗品費に繰り込む。 試料作成の条件を様々に変えるためのガスフロー装置と排気装置を計画通り今年度導入した加熱装置に組み込む。
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