研究課題/領域番号 |
24550029
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
藤本 斉 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (30183932)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境半導体 / ラマン分光法 / 粉末X線回折 / 二ケイ化鉄 |
研究実績の概要 |
二ケイ化鉄の粉末試料は構成元素の酸化物に覆われた半導体相と金属相の混在した微結晶であることがラマン分光法と粉末X線回折からわかったため,焼結することにより均一な半導体相の固体試料作製を目指してきた。30 mg程度以下の少量試料においては,1200℃で6時間かけて溶融し,その後,相転移のために900℃で200時間保持することで均一な半導体相を有する試料が得られることがわかった。また,溶融状態の1200℃から室温まで急冷することで金属相を得ている。100 mg以上の試料量になると,同じ条件では微結晶が完全に融着せず,かつ均一な半導体相をもつ試料は得られなかった。試行錯誤の結果,溶融時間を24時間,相転移時間を600時間と各時間を長くする必要があることが判明した。粉末試料から溶融条件を経ずに900℃で相転移させてもほぼ半導体相試料が得られるものの,内部には構成元素の酸化物や金属相が一部残存し,物性研究や応用には耐えられる試料ではなかった。一方,金属相の試料を900℃に保持するだけで半導体相に転移することもわかった。試行した21回の全ての焼結実験において焼結前後の質量減少は,出発試料の量に関係なく,約1割であった。 試料の評価として測定したランマンスペクトルおよび粉末X線回折の結果は,岡山理科大学財部教授作成の薄膜および茨城大学鵜殿教授作成の単結晶試料とも比較している。半導体相の単結晶は正方晶系に近い斜方晶系であることが知られており,結晶系どおりラマンスペクトルに励起光の偏光方向依存が確認できた。一方,焼結体では,平均化されたスペクトルになり,試料内は様々な方向を向く結晶子の集まりであることと推定した。消滅則のためか単結晶において粉末X線回折に高次反射が現れず,一方,焼結体では結晶構造から期待される回折パターンが得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
電子分光による電子状態研究に必要な半導体相および金属相の試料調製条件の策定ができ,測定可能な試料を得るに至った。また,X線回折を併用しながらラマン分光法による試料の評価が有効であることがわかった。これらは,当初2年目の前半までに達成する計画であったが,3年を要した。研究実績の概要に記したように試料の焼結条件策定に1年以上の多大な時間を要したことが遅延の理由であり,また,電子分光測定に供すことのできる大きさの試料作製には少なくとも1カ月の長時間を要すことも要因である。そのため,計画を変更し,さらに,研究期間の延長をした上で3年目は物性測定に耐えうる試料の調製に特化して研究を進めてきた。 加えて,本研究課題が採択されるのと同時に,所属組織の運営に携わることになり,本研究に対する申請時のエフォートを確保できなかったことも理由の一つである。特に学外の施設に赴いて長時間の測定を行うことのできる時間を確保できなかった。また,超高真空下での測定操作を熟知した大学院生もいなかったため,測定を委託できる協力研究者も確保することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
電子状態を考察するための試料作製がほぼ終わっているので,半導体相と金属相試料の電子分光による電子状態の測定に移る。清浄表面を得る方法として,結晶構造や表面近傍の組成の変化を避けるためスパッタ―以外に真空中でのやすり掛けも試みたい。 研究の進捗状況を考え,電子分光法による電子状態の実験的解析は,半導体相と金属相にのみ限定することにする。可能であれば,試料の履歴による電子状態の変化を調べることにする。 代わりに他の研究施設に赴く必要のない測定を試料の電子状態の考察のために加えることにする。作成した試料は様々な方向を向く結晶子からなるとラマン分光法から推定しているが,その確認と結晶子間の影響をみるため,金属相および半導体相試料の電気伝導度の温度依存性を調べる。半導体相からは,電荷担体生成の活性化エネルギーが求められるはずであり,電子分光から得られるエネルギーギャップとの比較検証を行うことにより,結晶内と結晶間の電荷担体の移動について考察を加える。 測定の結果をもとに試料の各種結晶相と電子状態についての考察を加え,二ケイ化鉄における禁止帯発現理由を考える。また,研究をまとめるに当たり,試料焼結時の条件と試料の状態との関係を真空度も含め詳細に検証する。 半導体相と金属相の電子状態を比較検討した上で,これまでに作成した様々な状態の試料について電気伝導度等の測定結果を基に試料の状態と物理的性質および電子状態の関係を検証考察して研究の総括とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要に記したように試料の焼結条件策定に1年以上の多大な時間を要したことが遅延の理由であり,また,電子分光測定に供すことのできる大きさの試料作製には少なくとも1カ月の長時間を要すことも要因である。そのため,計画を変更し,研究期間を延長した上で3年目では物性測定に耐えうる試料の調製に特化して研究を進めてきた。そのため物品の購入をほとんどしないままに終わり,次年度へ繰り越すこととなった。 加えて,本研究課題が採択されるのと同時に,所属組織の運営に携わることになり,本研究に対する申請時のエフォートを確保できなかったことと他機関に赴いて測定をする時間をとれず,また,高真空下の測定操作を熟知した研究協力者も育てることができなかったことも,研究旅費として計上した予算に残額が生じた理由の一つでもある。
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次年度使用額の使用計画 |
焼結条件を策定できたが,条件をより精度よく評価し,焼結試料の状態との関係を把握するために低真空から中程度真空(大気圧から1/10000Pa程度)まで測定可能な真空測定系を新たに導入する。電子分光による電子状態測定は,半導体相試料と金属相試料に限定して行い,測定に伴う旅費及び消耗品費を確保する。低真空下長時間稼働可能な排気系の導入し,焼結試料への残存気体の影響を調べる。現有する電気伝導度測定に本研究対象物質を測定するために必要な機器の導入,および,測定に必要な消耗品の購入費も新たに加える。 大学内運営業務の状況に変わりはないため,早急に超高真空下測定技術を有する研究協力者を育て,測定を任せることとする。その旅費および滞在費も当初の計画通り使用する。
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備考 |
本課題の研究成果以外に査読付き学術誌論文2編
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