これまでの研究実績により,二ケイ化鉄の各相及び表面酸化膜の付着状態はラマン分光法により評価できること,また,X線回折により試料全体のバルクな結晶の状態を確認できることがわかっている。また,市販試料は物性研究や素子材料として応用するのに耐えうる均一な半導体相(β相)ではないこともわかっており,均一なβ相試料を得る温度条件も得ることができた。今後の応用に向けて再現性を目指した焼結条件の精査をすると同時に,得られた試料の電気特性の測定を試みた。 市販のβ相二ケイ化鉄試料は,0.5 mPaの中程度真空下でも1200℃で焼結することで微結晶は融着し,引き続き900℃で保持することでほぼ均一なβ相の試料が得られた。この間の質量減少から,約10%の二酸化ケイ素が市販試料には含まれることがわかっているが,単結晶や薄膜,さらには焼結体ではラマンスペクトルにβ相特有のピークを示すことから酸化膜は表面のみにとどまり,内部まで酸化が進まないことがわかった。市販試料を同様の真空下900℃で200時間保持することで融着はしないもののβ相微結晶試料を得ることが可能であり,結晶子は小さくてもやはり酸化は表面にとどまることが予想された。また,市販試料を超合金乳鉢で粉砕して焼結しても質量減少に大きな変化がないことから,市販試料には合成の段階から二酸化ケイ素が含まれている可能性が高い。 焼結試料を使って四端子法で電気伝導度の測定を試みたが,電圧降下が測定装置の限界を超えており,測定不能となった。かなり高い電気伝導度をもつことを示しており,紫外光電子分光によるフェルミ準位付近に価電子帯状態密度が存在することと一致する。β相二ケイ化鉄はn型半導体との報告もあるが,今回の測定からは単結晶,薄膜及び焼結体ともにp型であることを示す結果となった。 今後,鉄以外の化合物についてラマン分光法による評価を適用予定である。
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