研究課題/領域番号 |
24550032
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藪下 聡 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (50210315)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 複素基底関数法 / 光イオン化 / 振動数依存分極率 / 解析的微分法 / 軌道指数最適化 |
研究概要 |
将来の分子系へ応用計算を念頭に置き、その準備として、水素様原子の1s,2p,3dなどの始状態からの光イオン化過程を扱った。1次摂動連続関数を、数個のc-STO、c-GTO(それぞれ複素数軌道指数ζiを持つ、Slater-type orbital、Gauss-type orbital)を用いて展開し、その展開係数だけでなく{ζi}についても最適化する一般的計算手法を完成させ、またそのプログラムを作成した。 具体的には、振動数依存分極率α(ω)のζiに関する2次微分までの解析表式を誘導し、軌道指数をNewton-Raphson法を用いて最適化した。特にc-STOを用いることで、1次摂動波動関数の虚部には正則クーロン波動関数の情報が、またその実部には非同次項である双極子モーメント×始状態波動関数と非正則クーロン波動関数の和の情報が、r=0からr=10-20bohr程度まで正確に表現されることを確認した。 計算精度は、r=10~20bohr程度まで保障されるので、その領域内で1次摂動波動関数の関数値とその1次微分をWKB解にマッチングし、光電子の感じるポテンシャルが簡単に表現できるrが大きな領域まで補外し、漸近領域における位相シフトを簡単かつ高精度に計算する手法を開発した。この手法により、2p→ks,kdだけでなく3d→kp,kfについても、クーロンの位相シフトや、光電子の空間分布の角度依存性を表現する異方性パラメータβを有効数字3ケタの精度で得ることに成功した。 最適化された軌道指数{ζi}は、複素平面第4象限において扇形に分布することが分かった。この現象を分析したところ、実軸に近い軌道指数は非同次項の振舞いを表現するために、また虚軸に近い軌道指数は正則クーロン波を表現するために、寄与していることが分かった。この分析を元にして、さらに最適化の収束性を高める工夫を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
cSTOを用いた場合には、全イオン化断面積だけでなく微分断面積や位相シフトまで精度よく計算できることが分かったが、cGTOを用いた場合には十分な計算精度が得られなかった。これは、cGTOの関数の特徴に起因するものであると考えているが、その分析はまだ不十分なままである。以前行った全断面積の変分的計算では、c-STOとc-GTOのどちらの基底関数も同程度の精度を与えることを確認している。また、自動イオン化断面積にみられるFano-profileなどの多体効果も、多くの実数GTOにc-GTOを一個含め、その複素数基底関数を最適化することで正確に表現できた。当初の予定では、c-GTOがどの程度の計算精度を与えるかを十分に確かめる予定であったが、この方面の研究は、必ずしも十分に進んだ訳ではないため、今後は、この研究も継続して進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
c-GTOが、全断面積だけでなく、微分断面積や位相シフトに対してどの程度の計算精度を与えるかを十分確かめる必要がある。もしその計算精度が不十分であれば、c-STO基底とGTO基底の混合計算を計画する。その場合は、複素数の軌道指数に起因して複素数を引数とする誤差関数を高精度かつ高速に評価する計算手法を開発する。 1中心のクーロン波動関数をcSTO関数の線形結合で表現できることが明確になったので、分子への応用として、通常よく用いられる縮約基底関数の考え方を導入する。水素分子イオンのような1電子多中心系についても解析的微分法を検討する。以前の研究で明らかにした、kpσuとkfσuの間の干渉効果を調べ、その異方性パラメータの計算可能性を確認する。 多電子系の扱いには、電荷重心に中心を持つ複素基底関数を使う計画であるが、それだけでなく、多中心の基底関数の可能性も検討する。さらに、分子領域のN電子系波動関数を、WKB解を用いて漸近領域まで補外するには、丁度R行列法のように、分子領域においてN電子系フラックス演算子を1電子演算子の和として表現して計算に用いる。この研究と並行して、多電子系に関してαの軌道指数に対する2次微分までの解析的な表式を誘導しプログラムを作成し、HeやH2などの簡単な系でその適用可能性を調べ、さらに異方性パラメータβの計算可能性を確認する。 多電子系のプログラム開発に際しては、様々な工夫を行い、計算時間の最適化のためのチューニングが重要である。例えば、束縛状態分子軌道を表現する基底関数は固定し、連続状態用の軌道指数だけを変化させて最適化する。この方法により、大多数のAO積分はωを変化させても、またNewton-Raphsonの最適化(通常各ωに対して3,4回で収束する)に際してもリサイクル出来るので、そのような高効率の計算手法を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実際のプログラム作成は、所属研究室の大学院生数名に依頼する予定でる。そのために謝金を準備する。またその研究成果発表のために学会発表用の旅費なども必要である。さらに最新の計算ソフトを用いて快適に数値計算を行うための予算も必要である。
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