研究課題/領域番号 |
24550032
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藪下 聡 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (50210315)
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キーワード | 複素基底関数法 / 光イオン化 / 振動数依存分極率 / 解析的微分 / 軌道指数最適化 / Dirichlet型境界条件 / Laplace方程式 / 非同次シュレディンガー方程式 |
研究概要 |
将来の分子系への応用計算を念頭に置き、その準備として、水素様原子の1s,2p,3dなどの始状態からの光イオン化過程、およびHeの2電子励起状態を経由する自動イオン化を含む光イオン化過程の量子化学的計算手法の開発を行い、その手法に含まれる様々な特徴を明らかにした。 1.昨年度までの研究により、光イオン化過程の断面積を、分子と光の相互作用を1次の摂動とする非同次シュレディンガー方程式の解の虚部の情報から得ることが可能であり、基底関数を最適化することで、従来は困難であった角度依存性の情報まで得ることが可能になりつつある。今年度は、特に非同次項が、双極子モーメントをlength-formにとるかvelocity-formに取るかによってその表現が変化する自由度と、連続状態を展開する基底関数の関係について調べた。その結果、特に基底関数の原点付近の振る舞いが計算精度やその収束性に影響を及ぼすことを明らかにした。 2.振動数依存分極率αが、複素数軌道指数ζの解析関数として振る舞うζの領域において、αの実部も虚部も、ζの実部と虚部の2変数の関数とみなすとLaplace方程式を満たす。この数学的な関係を用いると、αのζ依存性をDirichlet型境界条件を使った積分表示の形式で表現することが出来、新たな解析接続法を示すことができる。この方法を発展させて、実数基底関数だけで、従来は不可能であった共鳴幅の狭い自動イオン化断面積を計算出来ることをHeの2電子系で示した。 3.複素数基底関数の軌道指数はNewton-Raphson法で最適化しているが、その時の2次微分の情報を含むヘッシアン行列の固有値解析を行った結果、重要な寄与をする基底関数としては、非同次項を表現する始状態である束縛状態と同じ動径関数の振舞をするものと、終状態である連続状態の動径関数の振る舞いをするものであることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究で、複素スレータ関数(cSTO)を用いた場合には、全イオン化断面積だけでなく微分断面積や位相シフトまで精度よく計算できるが、複素ガウス型関数(cGTO)を用いた場合には計算精度が不十分であることが明らかになった。この点はまだ未解決であり研究結果としても不満足な点であるが、最近、cSTOを複数のcGTO関数の線形結合で表現する手法を開発して、上記問題を回避することを行っている。この手法の導入により当初想定した研究目的は達成されつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在試行的に行っている、c-STO基底を分子用にGTO基底で展開する手法を完成させる。その基底関数を作成すると、光イオン化だけでなく、分子の電子共鳴状態を効率的に評価することが可能になる。また複素数を引数とする誤差関数を高精度かつ高速に評価する計算手法を開発する。 水素分子の2電子励起共鳴状態を経由する分解過程には、量子もつれ効果や干渉現象と関連した興味深い実験研究がなされている。我々の計算手法は、このような実験結果の理論的解析にも役立つものであるので、その分析を始めることを計画している。 多電子系のプログラム開発に際しては、計算時間の最適化のためにチューニングを行っている。これまでの継続であるが、束縛状態分子軌道を表現する基底関数は固定し、連続状態用の軌道指数だけを変化させて最適化する方法により、大多数のAO積分はωを変化させても、またNewton-Raphsonの最適化(通常各ωに対して3,4回で収束する)に際してもリサイクル出来るので、そのような高効率の計算手法を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、予算として準備していた、大学院生への研究謝金が抑えられたこともあり、金額的には2万円程度であるが執行できなかった。 次年度の研究謝金として研究に役立てる予定である。
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