X線自由電子レーザー(XFEL)による、化学反応の追跡、単分子構造解析、新奇物性の発現、の実現可能性を理論的に検討するには、XFELの実験で特徴的に生成される内殻励起・内殻イオン化の現象を定量的に記述する必要がある。我々が開発している軌道特定(OS)汎関数を用いた密度汎関数理論(DFT)において、それらの現象を高精度に記述することができるようになりつつある。実際に、OS汎関数を用いたDFTを小分子に適用したところ、内殻励起エネルギー・内殻イオン化ポテンシャの見積もりなどで良好の結果を得た。以上から化学反応を精度良く追跡可能な手法の開発に成功した。 最近、XFELを用いて電荷移動反応ダイナミクスの検討[J. Phys. Chem. Lett 5 (2014) 2753]が行われた。対象は、色素増感太陽電池で用いられる、酸化物半導体ZnOに吸着したルテニウム色素(N3)である。色素の中心金属であるRuの光電子スペクトルの変化を追跡する予定であったが、対象系は色素のみならず酸化物半導体も含んでおり大規模なため、開発した手法では計算コストなどの点から十分な精度の結果得ることが困難であることがわった。今後、計算プログラムへの高速計算アルゴリズムや高効率な並列化アルゴリズムの導入が必要である考えられる。本研究で、XFELを理論的に検討するのに必要な計算手法の開発に成功し、XFELの実験の実現可能性を検討する環境を整えた。
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