研究課題/領域番号 |
24550035
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研究機関 | 姫路獨協大学 |
研究代表者 |
岡村 恵美子 姫路獨協大学, 薬学部, 教授 (00160705)
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研究分担者 |
安岐 健三 姫路獨協大学, 薬学部, 助手 (50714945)
原矢 佑樹 姫路獨協大学, 薬学部, 助教 (30634604)
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キーワード | 生物物理 / 界面・表面物性 / 超精密解析 / NMR / 膜透過 |
研究概要 |
我々は、24年度に、直径10~20 μmの細胞サイズベシクル(CSV)が細胞膜モデルとして有用であること、CSVは表面の曲率が小さいにもかかわらず、膜中のリン脂質分子が、膜の垂直方向に大きく揺らいでいる(突出運動する)ことを明らかにした。 この成果にもとづき、25年度は、上記の膜の揺らぎが疎水性の物質によってどのように制御されるかを検討した。実際の生体膜には、膜を貫通するタンパク質やコレステロールなど疎水性の成分が多く存在するからである。研究では、距離情報から膜表面の凹凸を見積もることができる「核オーバーハウザー効果」を膜揺らぎの指標ととして用いた溶液NMR計測を行い、膜の揺らぎにおよぼす疎水性物質の影響について検討した。疎水性のモデル物質として、ビスフェノールAとパルミチン酸の重水素化物を選択した。その結果、ビスフェノールAは膜中のリン脂質の揺らぎ(突出運動)を抑制するが、パルミチン酸はリン脂質の垂直方向の揺らぎにほとんど影響を与えないことが明らかとなった。両者の相違について、膜中での結合様式から考察することができた。これらの成果を取りまとめて、学術誌に投稿する予定である。 さらに、生きた細胞を用いた膜透過の研究も開始した。細胞膜を透過する性質をもつオクタアルギニンペプチドを用いて、膜透過をNMRで定量解析するための予備計測を行った。その結果、生体膜の熱揺らぎにもとづく透過過程をNMRで時間分解計測するための最適な条件を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体膜には、膜貫通タンパク質やコレステロールといった疎水性の成分が多く含まれることから、そのような環境で、膜の熱揺らぎがどのように制御されるかを明らかにすることは重要である。25年度には、実際の細胞サイズに匹敵するモデル細胞を用いて、膜の熱揺らぎに対する疎水性物質の影響を検討することができた。膜の揺らぎに対する疎水性物質の効果が一様ではなく、膜中における存在様式によって揺らぎの制御機構が異なるという今回の知見は新しく、今後膜を介した物質透過を研究するための新しい手掛かりになると期待される。現在、これらの成果を取りまとめて学術誌に投稿する段階に至っていることから、研究が順調に進展したものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
25年度に条件検討を行った細胞膜を透過するオクタアルギニンペプチド (Arg)8をモデル薬物として選択して、膜の熱揺らぎにもとづく(Arg)8のヒト白血病細胞株への輸送過程を、NMRにより分単位の時間分解でリアルタイム計測する。NMRシグナル強度の変化を時々刻々追跡して濃度の推移を明らかにし、これをもとに、定量的な速度論へ展開する予定である。フッ素原子を含むアミノ酸をN末端に導入したペプチドを固相合成し、19FNMRを用いて、細胞中のペプチドを識別する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費の一部について、他の研究費から支払いを行ったため。 以下の消耗品を購入する。 i) ペプチド、特にフッ素原子で修飾したアミノ酸を含むペプチドの合成に必要な試薬、ii) NMR計測用試料管、iii) 重水素化溶媒。 さらに、成果発表のための旅費、研究成果投稿料を計上する。
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