気相における孤立したカーボンナノチューブ(CNT)の物性および反応性を、研究代表者らが開発した光分解生成物画像観測装置と、開発中のCNT分子線源とを組み合わせた装置を用いて解明すること、およびこの結果と関連付けながら、CNTの電子材料等への具体的応用を試みることを目的として本研究を実施した。 昨年度までに、CNT分子線源を作成するために必要な予備実験を行い、これに基づいて真空装置の設計を行った。一方で、CNTの応用は、色素増感太陽電池(DSSC)の正極(対極)への適用という形で具体化させ、実際に電池の作製と光電変換効率の測定を行った。さらに、作製した電池の電流電圧特性について等価回路を用いたシミュレーション等も行った。これらの結果から、CNT溶液の電極基板への滴下あるいはスピンコートのような簡便な方法で、白金対極と比較しうるCNT対極の作製が可能であることが示唆された。以上をまとめて、CNTのDSSC正極への適用に関する学会発表も行った。 本年度は、昨年度までに検討した設計に基づき、真空装置を製作した。研究期間の終了時点では、この装置の立ち上げを行っている段階であり、並行して、性能試験の準備も進めている。装置の設計段階で非常に時間を要したため、作成が遅れ、期間内には所期の実験結果を得るところまでは到達できなかった。そこで、研究期間終了後も、この装置を用いてCNTの気相分光に向けて実験を継続し、得られた成果を発表していく予定である。一方、この真空装置の原形となった、従来の装置を改良して行ったフラーレン類の解離性光イオン化についての論文を発表した。この改良は、生成物の検出における質量分解能を向上させるものであり、今後行うCNTの分光にも必須の要素技術を開発できた。
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