研究課題/領域番号 |
24550041
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小川 桂一郎 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (50114426)
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研究分担者 |
原田 潤 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00313172)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | フォトクロミズム / スピロピラン / スピロオキサジン / クロメン |
研究概要 |
スピロピラン類とその類縁体であるスピロオキサジンおよびクロメン類は,フォトクロミズムを示す代表的な化合物として知られ,反応機構に関する基礎的な研究から,調光レンズへの利用など商品開発に至るまで,非常に幅広く研究されている.これらのフォトクロミズムは,これまで,溶液やポリマー中に限られ,固相では発現しないとされてきたが,申請者らは最近,固相でも低温ならばフォトクロミズムが発現することを見出した.本研究は,これらの固相フォトクロミック反応の経路を解明し,固相ならではの反応性を生かした新規フォトクロミック材料の実現を目的としている.そのために,スピロピラン類縁体について,固相固有の着色体の発生を確認し,その光反応性を調べ,それが主たる着色体となるような化合物の開発に取り組んだ. 反応経路を解明するためには,固体中に生成する複数の着色体を区別して観測する必要がある.そのためには,可能な生成物の種類が少ない系を対象とする方が結果が分かりやすい.スピロピランおよびスピロオキサジンでは,開環体の2つの環外二重結合に幾何異性が生ずるのに対して,クロメンでは,開環体の末端オレフィン炭素の置換基が同一なので,幾何異性は一つの環外二重結合にのみ生ずる(式(3)).このため,クロメンのフォトクロミック反応で生じうる着色体の異性体の種類は,スピロピランおよびスピロオキサジンの半分となる.しかも,クロメンは,その誘導体が調光材料として実際に使用されており,フォトクロミック材料としての重要性が高い.そこで,平成24年度は,クロメン類の置換体をいくつか合成し,その固相光反応を調べた.その結果,いずれも,低温でフォトクロミズムが発現することが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり,クロメン置換体をいくつか合成し,それらが固体中低温でフォトクロミズムを発現することが確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に合成したクロメン誘導体について,固相フォトクロミック反応を拡散反射スペクトルを用いて追跡する.申請者のこれまでの研究から,着色体の生成量は光照射温度に大きく依存することが分かっている.粉末試料の温度を調整して光照射を行い,着色体の紫外可視吸収スペクトルを測定することで,着色体の種類および生成効率の温度変化を調べることができる.申請者らはさまざまな温度で粉末試料の紫外可視吸収スペクトルを測定するための独自の装置を開発しており (J. Phys. Chem. B, 2004), その装置を用いることにより500 Kから77 Kの温度領域での粉末試料の光反応性を効率よく調べることができる. また,X体の光反応性の検討も行う.申請者は,スピロピラン,スピロオキサジン,およびクロメン類の固相フォトクロミック反応の反応性が,低温で劇的に増大することを見いだした.低温での反応性増大の原因としては,メロシアニン体から閉環体への熱的な戻り反応が,低温では遅くなることが挙げられる.しかし,熱的な戻り反応が進行しないより低い温度領域においても光反応性が増大していることから,低温でメロシアニン体生成の速度そのものが増大していることも分かった.その要因としては,中間に生成する不安定なX体が低温では長寿命化し,それが光反応して メロシアニン体を生成することが考えられる.そこで,この仮説を検証するため,拡散反射スペクトルでX体が観測された化合物ついて, X体に光照射する.メロシアニン体の生成が確認できれば,X体からの光反応によるメロシアニン体生成も低温での反応性の劇的な増大の要因の一つであるといえる.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,主に,薬品類,光照射用ランプ,特注粉末試料ホルダー(ガラス製)などの消耗品と,成果発表のための旅費に用いる
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