研究課題
スピロピラン類とその類縁体であるスピロオキサジンおよびクロメン類は、フォトクロミズムを示す代表的な化合物として知られ、反応機構に関する基礎的な研究から、調光レンズへの利用など商品開発に至るまで、さまざまな側面から多くの研究が行われている。それらのフォトクロミズムは、これまで、溶液やポリマー中に限られ、固相では発現しないとされてきたが、申請者らは最近、固相でも低温ならばフォトクロミズムを発現することを見出した。本研究は、これらの固相フォトクロミック反応の経路を解明し、固相ならではの反応性を生かした新規フォトクロミック材料の実現を目的としている。スピロピラン類、スピロオキサジン類、およびクロメン類のフォトクロミック反応は、いずれも、閉環体が6π電子環状反応によって開環したのり、異性化によってメロシアニン体と呼ばれる着色体を生成する。この反応は、反応前後での分子の形状が大きく変化する。一般に、固体中では分子が密に詰まっていて、分子の形状が大きく変化するような反応は進行しにくいとされてい。それにもかかわらず、一連の化合物について、固相中でフォトクロミック反応が進行したのは、それらの反応が、固体の表層でのみ進行しているためである可能性がある。その観点から、平成26年度は、代表的な光反応性分子であるが、固相では光反応が進行しないとされているスチルベン類の固相光反応を検討した。その結果、固体試料に紫外光を照射すると、室温において、[2+2]付加環化反応とcis-trans異性化反応がわずかながら進行し、その反応率が温度の上昇とともに増大することを見出した。
3: やや遅れている
申請者らは、スピロピラン類、スピロオキサジン類、クロメン類のいずれも固相でフォトクロミズムを示すことを見出したが、これまでその反応が、固体の内部においても進行するのか、表層でのみ進行するのかについては、とくに区別をしてこなかった。しかし、その区別をすることは、固相光反応の理解にはもちろん、応用する場合においても、非常に重要である。この点を解明することは、当初は計画していなかった。より単純な系であるアゾベンゼンとその置換値について検討を行い、さらに、代表的な光反応性有機分子であるスチルベンとその置換体についても検討を行った。そのために、当初の予定と比べると、研究の進行はやや遅れているが、それを上回る重要な成果が得られたと考えている。
固体の内部では進行できない光異性化反応が、固体の表層付近で進行できることが、アゾベンゼン類についてわかった。また、スチルベン類の場合には、固相光反応は進行しないとされていたにもかかわらず、固体試料への紫外光照射によって光反応が進行することを見出した。このことは、結晶中の分子の配列からは反応進行が不可能と考えられる場合でも、固体表層付近では反応が進行できる場合があることを示しており、スピロピラン類、スピロオキサジン類、クロメン類を含めて多くの分子にもあてはまる可能性がある。それを検証していく。
当初想定していたX線管球の交換を行わないで済んだため。
物品費は、主に、試料合成および測定に用いる消耗品(薬品、ガラス器具)にあてる。旅費は、主に、学会参加(日本結晶学会、有機固体化学国際会議)および共同研究者との打合せに用いる。その他は、主にデータベース(CCDC)に用いる。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Cryst. Growth Des.
巻: 14 ページ: 1516-1519
10.1021/cg500962y
Phys. Chem. Chem. Phys.
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http://ogawa.c.u-tokyo.ac.jp/list.html