研究課題/領域番号 |
24550044
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
徳永 雄次 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80250801)
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キーワード | 分子認識 / 分子スイッチ / ロタキサン / 分子応答 |
研究概要 |
外部刺激に応答しスイッチ機能を示す新規集合体の開発を行っている。特に25年度は前年度に引き続き「刺激の強弱に応じた段階的な分子スイッチシステム(多進法分子スイッチ)の構築」に関する研究を以下について行った。 1.2種の [2]ロタキサン混合による多状態スイッチシステムの構築:我々が開発した3状態でスイッチする[2]ロタキサンを2種合成し、その混合による新しいシャトリングシステムの開発を行った。その結果、4状態スイッチシステムの構築に成功した。即ち、酸性、中性、弱塩基性、強塩基性の4状態で2種の[2]ロタキサンに存在する4種のアミン部(それぞれのロタキサンが2種のアミンを持つ)のプロトン化が段階的に進行し、選択的に分子応答することを見出した。本システムでは、酸・塩基応答に伴うアウトプットの検出が観測されなかったため、これら2種のロタキサンに紫外可視吸収部を持つ末端部の導入も試み、ジアゾベンゼン部を持つ1種のロタキサンの合成を実施した。 2.ベンゼンをコアに持つ[4]ロタキサンの多状態スイッチの合成研究:種々合成法を検討したが、ジフェニルアセチレンを有するロタキサンからのコンバージェント合成は達成できなかった。しかしながら段階的な方法により、トリフェニルベンゼンを核に持つ[4]ロタキサンの合成を達成した。続いて本ロタキサンの液性応答を検討したところ、3個の環部の移動に伴う分子シャトリングが観測された。段階的な移動についての観測は、NMRでは複雑なスペクトルを与えその解析困難であった。またスイッチに伴う性質変換については、コアであるトリフェニルベンゼンに帰属される極大吸収波長の変化を与え、光化学特性変換が認められた。 3.新規分子スイッチの構築検討:カリックスアレンの構造的な特性を活用した分子スイッチについても検討を行い、擬[2]ロタキサンと擬[3]ロタキサンの形成を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度の目標は、多段階で応答する新規分子スイッチシステムの構築、並びに変化に伴うスイッチ自体の特性変化の観測である。新規分子スイッチシステムの構築に関しては、1.異なる2種のロタキサンの混合による新しい4状態スイッチの構築を達成し、2.トリフェニルベンゼン核を持つ[4]ロタキサンの合成とその刺激に対する環移動、に関する成果が得られ、計画通りの目的を達成した。また、3.カリックスアレンの構造を利用した新しいビスクラウンを合成し、本ビスクラウンによる擬[2]ロタキサンと擬[3]ロタキサンの構築を達成し、新しいスイッチ素子を見出した。一方、スイッチングに伴う化合物自体の特性変化の観測については、上記1に対し、今回合成した2種のロタキサンとは異なる末端部を設計しモデル化合物として検討し、光物性変換がスイッチングにより実施できる可能性を示した。また、上記2に関しては、変化量は予想より少ないものの環移動に伴う吸収スペクトル変化を観測している。計画していた電気化学的な特性変換については検討を始めたところであり、残念ながら未だ定性的な変化に関しても観測されていないのが実情である。これらを総合して、多段階応答分子スイッチ素子の構築に関してはある程度高い達成度があると考えるが、変化に伴う特性変化の観測に関しては低い達成度であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、上述した1の「4状態スイッチシステム」に関する結果については、少しデータを加え論文として発表する。さらに、光応答部を末端に持つ[2]ロタキサンを合成し、2種の異なるロタキサンの混合による多状態変化とそれに伴う光応答観察を実現する。この際、ジアゾベンゼンとは異なる吸収波長を持つクマリン誘導体を光検知部として導入することを計画している。2の「ベンゼンをコアに持つオリゴロタキサン」に関しては、シャトリングによって変化するベンゼンコアの光特性についてその詳細を観測する。一方、電気化学的な特性変換に関しては、液性変化に伴うサイクリックボルタンメトリーを観察する。この際、基質の安定性が問題となり解析に不都合が予想されるので、その場合は溶媒や微分パルスボルタンメトリーの測定を含め様々なアプローチから電気化学特性を観察する。3のカリックスビスクラウンに関しては、まだ測定完了していない部分があり、詳細なデータを求めた後論文によって成果報告を行う予定である。 これらの研究と並行して、申請書に記載したロタキサンカプセル合成についても実施する。現在、カプセルの分子設計と設計したカプセルの部分合成を開始したところである。カプセル合成の後、外部刺激によるカブセル内部空間の変化をまず観測する。続いてカブセル内部空間変化に伴う分子認識変換について実現する予定である。 25年度は学内改修工事のため、学内にある高感度の核磁気共鳴が夏以降使用できなかったため、研究の進行に支障をきたした。今年度は、導入された新しい高感度の核磁気共鳴を十分に活用し、成果を出す計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
学内の核磁気共鳴が使用できず、若狭湾エネルギー研究センターの核磁気共鳴を使用した。その際、予定した以上に旅費と使用料がかかり、結果として、予定していた化学会年会の旅費について本助成金を使用しなかった。化学会年会の旅費に対する核磁気共鳴利用のための旅費と使用料の差額がおおよその次年度への繰り越し額となった。 全て物品費とする予定である。
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