研究実績の概要 |
いまだ実現されていない三重項カルベンの単離を目指し、立体保護基のC-H結合に挿入することによって減衰する三重項カルベンの反応部位であるC-H結合を、三重項カルベンと反応しないC-F結合に置き換えたジアリールカルベンの前駆体である、2,6-位をフッ素化したフェニル基を1,4-位に有する(1H-1,2,3-トリアゾリル-5-イル)(4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニル)ジアゾメタンを合成した。 このジアゾメタンを2MTHFマトリックス中77 Kで光分解し、対応するカルベンのUV-vis吸収を269, 280, 361-444 nmに観測した。このマトリックスの昇温実験を行ったところ、361-444 nmで観測したカルベンの吸収は220 Kまで観測され、240 Kまで昇温すると消失した。フルオロ基を持たない母体カルベンを同条件で発生させた場合、カルベンの吸収は105 Kで減少し始めることから、カルベンが非常に安定化されていることがわかった。この安定性の向上は、フルオロ基の導入によってカルベンの分子内C-H挿入による減衰経路がなくなり、カルベンが速度論的に安定化されたことを示している。 また、DFT計算(B3LYP/6-31G*)によって、カルベンの一重項と三重項状態の構造最適化とエネルギー計算を行い、観測したUV-vis吸収が三重項カルベンの吸収であること、三重項が一重項よりも約3 kcal/mol低エネルギーであり、このカルベンの基底状態が三重項であることがわかった。
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