研究課題/領域番号 |
24550050
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
瀬恒 潤一郎 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10117997)
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キーワード | らせん構造 / ポルフィリノイド / へリシティー / 不斉転写 / 酸化還元 |
研究概要 |
本研究では鎖状オリゴピロールの構造制御と新機能創出という研究テーマのもとに、らせん構造の向きを厳密に制御することを第一の目標とし、次に、そのπ電子系に由来する光化学特性、酸化還元特性の解明を行い、構造機能相関の観点からキラリティーが関与する新機能を開拓することを目的としている。平成25年度では両末端にアルデヒド基を有するベンジヘプタピロールを合成し、2価のニッケル、パラジウム、銅の複核錯体を合成した。X線結晶構造解析により複核の1重らせん構造を明らかにすると同時に、溶液中のダイナミクスについても検討した。溶液中では複数のコンフォメーション変化が存在し、らせんの反転に導くコンフォメーション変化は極めて遅い事が明らかになった。 1,3-フェニレンスペーサーを鎖中央部に含む特徴ある鎖状オリゴピロールニッケル錯体の末端ホルミル基は種々のアミンと容易に反応し、末端ジイミンを定量的に与えたが、1-シクロヘキシルエチルアミン、1-フェニルエチルアミン、1-(2-ナフチル)エチルアミン、フェニルアラニンエチルエステル、バリノールの光学活性アミンを用いると95%以上のジアステレオ選択性でらせんの向きが一方に偏ることを見いだした。CDスペクトルのgファクターは0.0133~0.0168であり、らせん不斉を持つ合成物質の中では極めて高いCD強度を示すことも明らかになった。CDシグナルの正負とらせんの方向の関係についても計算化学的な検討により決定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鎖長や構成要素の配列を比較的自由に設計し、合成することの出来るオリゴピロールの合理的な合成法の開発を行うことが本研究の第一段階である。本研究室で以前に開発していたビスアザフルベンを利用する新規な合成法により、分子修飾の可能性を拡げることができるアルデヒド基を両末端に有するヘキサピロール、ベンゼンやピリジンを鎖内に配置したヘキサピロール等の多様なオリゴピロール誘導体が高収率で合成できることを明らかにした。これらのオリゴピロール誘導体は1重らせん構造の複核金属錯体を与え、末端のアルデヒド基を光学活性アミンによりイミン化するとらせんの向きに偏りが誘起されるが、金属の種類により、光学活性アミンのらせん方向制御能が大きな影響を受ける。24年度に開発したヘキサピロールではニッケルに比べてパラジウムが良い結果を与えたが、25年度に開発したベンゼン環スペーサーを有するオリゴピロール誘導体の金属錯体では、パラジウムよりもニッケルが良好な結果を与え、脂肪族アミン、芳香族置換アミン、アミノ酸エステル、アミノアルコールなどの多様な構造を有する光学活性アミンを用いて、95%以上の高い選択性でらせんの向きを制御できるという画期的な結果を得ることができた。25年度ではこれに加えて、酸化還元機能を有する誘導体の分子設計と合成に関する予備的実験を行った。その結果、ベンゼンスペーサーの代わりにピリジンスペーサーを持つ誘導体を用いて、らせんの向きを完全に一方向に偏らせると同時にニコチンアミドジヌクレオチド様の酸化還元機能を有するらせん型金属錯体の合成に成功した。従って、本研究の主要な目標を達成できる見通しを得たので、今後は機能の向上とその応用に向けて注力することになる。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の研究により、オリゴピロール誘導体の合成法を確立することができ、らせんの向きの制御についても満足のいく結果を得ることが出来た。また、ニコチンアミドジヌクレオチド様の酸化還元機能の開発が有望であることが分かり、不斉酸化還元触媒への応用を目標に研究を推進してゆく。一方、酸化還元機能の一層の向上が期待される新規な構造のオリゴピロールとして、π電子系が全共役した誘導体の開発も推進してゆく。従来、使用していたgem-ジメチルジピリルメタンの代わりに、ジピリノンを使用する事ができれば、全共役したオリゴピロールが合成可能となり、π電子系での酸化還元が極めて容易に起こる事が期待される。これらの新規オリゴピロールの金属錯体合成し、錯体化学および有機金属化学的観点から構造、電子状態、反応性について基礎的知見を蓄積し、これらの研究を新規な不斉金属触媒の開発につなげてゆく。25年度は2人であった大学院生が本年度は5名となったので、多方面からの研究の推進が可能である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度では、博士後期課程の学生2名の内、D1の学生1名が自己都合により5月の時点で退学したため、24年度に当初予定していた研究計画が遅れたことが原因で25年度に補助金を繰り越すこととなった。しかしながら、24年度の実際の研究成果としては、Angew. Chem. Int. Ed.誌に本研究課題の論文が掲載された事から明らかなように、実施することのできた研究については極めて良好に進行し、予想以上の成果を得た。25年度は当初の予定通りの研究計画を実行することができたが、結果的に24年度から25年度に繰り越した金額がほぼそのまま26年度に繰り越される形となっている。しかしながら、25年度は2人であった大学院生が26年度は5名となったので、申請時の計画よりもより広範な研究の推進が可能となっている。 26年度では本研究課題に関連したテーマでの研究に従事する人員が倍増したことにより、物質合成に使用する薬品類やガラス器具、測定に使用する消耗品などの使用が増加する見込みである。更に、国内学会で本研究課題に関する最新の成果を複数の大学院学生が発表するので国内出張旅費を使用する。
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