研究課題/領域番号 |
24550050
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
瀬恒 潤一郎 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10117997)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | らせん構造 / ピロール / キラリティー / ヘリシティー |
研究実績の概要 |
本研究では鎖状オリゴピロールのらせん構造制御を中心課題とし、機能開発の元となる特徴的なπ電子系に由来する光物性、レドックス特性についても明らかにすることを目標とする。平成26年度では1,3-フェニレンスペーサーを鎖中央部に含む特徴ある第二世代鎖状ヘキサピロールの複核ニッケル錯体に関するらせん方向制御についてデータをまとめ、一流誌への論文発表を行った(Chem. Eur. J., 2015, 21, 239-246)。このニッケル錯体では末端イミン部の光学活性アミンの不斉情報が効果的にらせん不斉へ転写され、使用した10種のアミンはすべて50%以上の一方向らせん過剰率を示し、そのうち5種は95%以上の一方向らせん過剰率を示した。ニッケル錯体で95%以上のらせん制御能を示した(R)-1-シクロヘキシルエチルアミン、(S)-1-フェニルエチルアミンについて、対応する複核パラジウム錯体(75%、30%)、及び、スペーサーを含まない第一世代の鎖状ヘキサピロールの複核ニッケル錯体(30%、50%)と複核パラジウム錯体(85%、38%)のらせん制御のデータをまとめ比較した。次に、1,4-フェニレンスペーサーを鎖中央部に含む第二世代鎖状ヘキサピロール誘導体の複核ニッケル錯体を合成した。この錯体は、1,3-フェニレンスペーサーの誘導体とは異なり、取りうるコンフォーメーションの数が少なく、上記2つの光学活性アミンのらせん制御能は97%、77%であった。このように、適当なスペーサーの導入がらせん構造の制御に極めて重要である事を明らかにした。また、環状オリゴピロールの複核金属錯体のらせん制御についても検討を行い、光学活性カルボン酸を使用することでらせん方向を完全に偏らせる事に成功した。これらの研究で得られた成果は国際学会2件、国内学会4件で発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ピロールを構成要素とするシングルヘリケートとして、1,3-フェニレンスペーサーを有するヘキサピロールを用いれば、95%以上という非常に高いジアステレオ選択性で一方向らせんのヘリケートを得る事ができる。本研究室オリジナルの合成中間体であるビスアザフルベンを利用する新規な合成法により、多様なオリゴピロール誘導体が高収率で合成できることを明らかにした。これらのオリゴピロール誘導体は1重らせん構造の複核金属錯体を与え、末端アルデヒド基を光学活性アミンによりイミン化するとらせんの向きに偏りが誘起されるが、金属の種類により、光学活性アミンのらせん方向制御能が大きな影響を受ける。24年度に開発した第一世代ヘリケートではニッケルに比べてパラジウムが良い結果を与えたが、25年度に開発した1,3-フェニレンスペーサーを有する第二世代オリゴピロール誘導体の金属錯体では、パラジウムよりもニッケルが良好な結果を与えた。26年度に開発した1,4-フェニレンスペーサーを有する第二世代ニッケルヘリケートも良好ならせん制御能を示した。ほぼ当初の計画通りに優れたらせん制御能を持つヘリケートの開発に成功しているが、 これらの開発した誘導体について新機能創出の元となる光物性と酸化還元能に対する分子構造の影響を明らかにする作業が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
3年間の研究により、中央部スペーサー、末端部イミン、中心金属の組み合わせについて検討を行い、一方向らせんオリゴピロールヘリケートを得るための諸条件を確立することができた。2,2’-ビピロール部位を持つ第一世代のヘリケートはスペーサーを持つ第二世代ヘリケートに比べて、らせん方向制御能が劣るという結果を得ていたが、最近になって、2,2’-ビピロール部位に適当な置換基を導入することによって、らせん方向制御が著しく改善されるという可能性が出てきた。従来は2,2’-ビピロール部位の平面性を保ち、らせん反転が容易に起こるように4,4’-ジプロピル-2,2’-ビピロールを使用していたが、2,2’-ビピロール部位の3,3’-位に適当な置換基をもつヘキサピロール誘導体を合成し、その金属錯体に関して末端イミン基が及ぼすらせん方向制御について系統的な研究を行うことにより、本研究課題のオリゴピロールらせん制御に対する分子デザインの検討が完了する。ヘリケートのコンフォメーションは3,3’-位置換基の影響を大きく受けると考えられることから、その光物性と酸化還元挙動も大きく異なると考えられる。UV-vis, CD, CVを用いて、その特徴を明らかにし、光物性の可逆的スイッチングを電気化学的に達成する予定である。特に26年度に開発した1,4-フェニレンスペーサーを鎖中央部に含む第二世代鎖状ヘキサピロール誘導体ではπ共役系が分子全体に広がっており、その酸化還元挙動は興味深い。1,3-フェニレンスペーサーの誘導体、スペーサーを持たない第一世代ヘリケートと合わせて、酸化還元と光物性の比較を行い、本研究課題のまとめとする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の主題である鎖状オリゴピロール構造制御に関する論文をAngew. Chem. Int. Ed.誌(2013年52巻929-932)にすでに発表したが、26年度後半になって、この第一世代ヘリケートの分子骨格に対する新たな構造修飾により、らせん不斉制御能を格段に改善できる可能性を見いだした。26年度当初に予定していた物性検討の研究に比べて格段に重要なこの知見を本研究の結論に組み込む為の相当量の合成実験が必要となった。この計画変更のために期間延長を行い、27年度にこの点を明らかにして、本研究課題を完成させることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
第一世代ヘリケートの新しい誘導体として、2,2’-ビピロール部位の3,3’-位にメチル基をもつ新しいヘキサピロール誘導体の研究に使用する薬品類やガラス器具、測定に使用する消耗品を購入する。オリゴピロールの分子デザインとらせん制御能の関係を総合した研究成果は国内学会(錯体化学討論会等)、国際学会(Pacifichem2015)で発表する。
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