研究実績の概要 |
昨年度までの研究でヘキサピロールの中央部に2,2’-ビピロール、両末端に光学活性イミンを有するパラジウムヘリケート誘導体の立体化学について明らかにした。2,2’-ビピロール部がsynのclosed型の他に、antiのopen型およびheterohelical型のコンフォメーションが存在するために、そのらせん方向制御は十分ではなかった。この複雑なコンフォメーションの問題を解決するために予定の研究期間を一年延長した。従来のヘキサピロールヘリケートでは、らせん反転が容易に起こる事とπ共役平面が維持される事を考慮して2,2’-ビピロール部の3,3’-位は無置換であった。この3,3’-位にメチル基を導入したヘキサピロールヘリケートを合成し、その構造について検討した。メチル置換によって、らせん反転は遅くなったが停止することはなかった。更に、3,3’-位メチル基の立体障害はopen型およびheterohelical型のコンフォメーションを選択的に不安定化し、嵩高い末端イミン部を有するヘリケートでは実質的にclosed型のみが存在できることが、NMR解析で明らかになった。そのclosed型のらせん方向のジアステレオ選択性は(S)-1-フェニルエチルアミンの誘導体では89%,(R)-1-シクロヘキシルエチルアミンの誘導体では100%であった。これは対応する3,3’-位無置換の誘導体それぞれのジアステレオ選択性50%, 85%と比べて大きく改善された。また、X線結晶構造とNMRおよびCDスペクトルのデータを総合して、らせんの偏りを決定付けている構造因子がイミン部位の置換基と2,2’-ビピロール部との間のCH-π相互作用やπ-π相互作用であることを明らかにした。
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