研究課題/領域番号 |
24550054
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡本 秀毅 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (30204043)
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キーワード | 合成化学 / 光物性 / 光反応 / シクロファン / フェナセン |
研究概要 |
芳香族小クロモフォアを骨格資源として利用し,光反応によって種々の多環状骨格を構築することを目的に,25年度は以下の研究を実施した.また,得られた多環状化合物の反応性,電子物性等の検討に付いても検討を開始した. (1)アザシクロファン類の合成と光反応 ベンゼンクロモフォアの光反応によるベンゼン二量体の構築を目的として,フッ素置換アザシクロファン誘導体の合成と光反応を24年度に引き続き検討した.フッ素置換アザシクロファンは,光反応によってベンゼン環の炭素原子4個が結合する化合型ジエン骨格を生成することは前年度報告したが,生成物の詳細な構造を単結晶X線回折により解析した.このカゴ型ジエン骨格には非常に長いC-C単結合が存在すること,および熱反応で容易にo,o’-ジベンゼンへ解離することを見いだした.これらの反応は,シクロファン側鎖窒素原子上の置換基の立体的な影響をほとんど受けないことを見いだした.また,四架橋アザシクロファン骨格の合成を行い,光反応に用いる前駆体を得た. (2)多環状フェナセン骨格の構築 ジアリールエタン類のMallory光環化に前年度開発したフロー法を適用することで,種々のフェナセンを簡便に構築する手法を確立した.光フロー反応の条件を最適化することで,114-288 mg/hの反応効率で[n]フェナセン(n=3-7)を合成することができるようになった.この反応効率は一日に数グラムのフェナセンを合成できることに相当し,フェナセン合成の大幅な省力化が達成された.この効率的フェナセン合成法を利用して,高性能p型半導体として有望なフェナセン誘導体を構築することに成功し,そのデバイス特性を検討している.飽和のエチレン鎖で芳香族小クロモフォアを連結したジアリールエタンの光増感環化では,低収率ではあるが[n]フェナセン(n=4-7)を合成することができることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)アザシクロファン類の光反応 24-25年度の研究で,アザシクロファンの光反応でベンゼン環が二量化し,多環状化合物の生成が一般的に起こることがわかってきた.ベンゼン環上の置換基を変えることで,ベンゼン光二量化の反応モードが変わってくることも見いだした.現在までに光生成物として3種の多環状骨格が得られ,さらに光生成物の熱異性化で一種のベンゼン二量体骨格を生成することを確かめた.アザシクロファンは基本骨格が同じであっても,置換基の効果によりベンゼン核の光二量化の方向を柔軟に変え,安定な多環状骨格へ至ると考えられる.以上の結果は,当初計画したベンゼンクロモフォアをシクロファン構造に適当に配置し,その光反応により多環状骨格へ誘導する目的を達成できた成果と考えている. (2)多環状フェナセン骨格の構築 ジアリールエテンの光環化反応によるフェナセン骨格の構築(Mallory光環化)に,光フロー反応を適用することで,大幅な省力化が達成できた.25年度には,光フロー反応をフェナントレンから[7]フェナセンまで5種類のフェナセン骨格と官能基化したフェナセンの合成に応用し,いずれも高効率で反応が進行することを確かめた.ベンゼン,ナフタレン,フェナントレン,クリセン等の芳香族小クロモフォアを二重結合で結び,光フロー反応で各種フェナセンへ誘導する当初計画した方法論を確立することができた.これにより,有機電子材料等として有望視されるフェナセン類を十分な量で供給することが可能になった.
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今後の研究の推進方策 |
(1)アザシクロファン類の光反応:(a)アザシクロファンの構造とシクロファン中のベンゼン光二量化のモードとの相関を知るために,24,25年度に引き続き誘導体の合成と光反応を検討する.特に,ベンゼン環にペルフルオロアルキル基を導入した誘導体を検討する計画である.ペルフルオロアルキル基は,歪みの大きな環状化合物を安定化することが知られているため,本研究でそのような置換基を持つシクロファンの合成を検討する.(b)メチル置換アザシクロファンの光反応で得られているp,p’-ジベンゼン異性体の構造について,不安定性のため,構造の詳細を完全には決定できていない.26年度にその光異性体の単離と構造決定を行う予定である. (2)多環状フェナセン骨格の構築:(a)ジアリールエテンの光環化によるフェナセンの合成が,光フロー法で効率よく行えることが明らかになったので,π拡張フェナセンの合成に拡張し新たな電子材料の構築へ展開する.本年度は[n]フェナセン(n > 7)の合成を目標とする.また,フェナセン骨格に置換基を導入し,電子構造に影響を与えず可溶化させる誘導体の構築にも展開する計画である.(b)新たな材料提案に向けて,機能化フェナセン合成を行う.ベンゾイル基を有するフェナセンを合成しその電子特性を吸収,発光スペクトルで評価する.ヘテロ原子,特に窒素原子,を持つフェナセンを行い,新たな配位子,n型半導体等への展開を図る.
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は計画に比べ旅費としての消費が少なかったので使用予定額にくらべ実際の使用額が若干少額となっている. (1)物品費:試薬,ガラス器具等に738千円使用する予定である.(2)旅費:成果発表のため250千円を見積もっている.(3)謝金・人件費:論文校正・投稿,印刷費として180千円使用する計画である.
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