研究実績の概要 |
(1)ジアザシクロファンの光反応:メチル基を有するジアザシクロファンの光反応を酸の存在下で検討した.酸を添加しない条件ではp,p’-ジベンゼンが生成するが,トリフルオロ酢酸存在下では,オクタヘドラン骨格を持つと考えられる光生成物が得られることを見いだした.酸の作用により不安定なp,p’-ジベンゼンが存在できず,熱力学的に安定なオクタヘドラン骨格が観測されたと考えられる. (2)シクロファン光反応の理論計算による解析:アザシクロファンの光異性体として期待される多環状ベンゼン二量体の相対エネルギーをDFT法により見積もり,相対的安定性と,光反応で実験的に得られる光生成物との相関を調べた.アザシクロファンのベンゼン環が無置換の場合,オクタヘドラン骨格がもっとも安定であると期待され,観測される生成物分布に一致する.フッ素,メチル置換の場合,それぞれ,カゴ型ジエン,p,p’-ジベンゼンが一次生成物であるが,これらは最安定な光異性体ではないことがわかった.これらの差異は,励起状態の中で構造の安定性だけでなく,電子的な要因が重要であることを示唆しており,今後,さらに詳細な理論計算による解析が必要である. (3)光反応による多環状芳香族化合物の合成:ジアリールエテンから光反応により各種フェナセン骨格の誘導を引き続き検討した.ベンゼン環3~8個がジグザグに縮環したフェナセン類の合成法を確立した.この光反応には本研究課題で検討を始めたフロー光照射法が有効であることが明らかとなった.. (4)フェナセンの半導体特性への展開:フェナセンの半導体特性評価は当初の目的にはなかったが,光フロー反応で[8]フェナセンの合成が可能となったため,半導体特性を検討した.[8]フェナセン単結晶を用いて電界効果型トランジスタデバイスを作成し,特性を評価し,[8]フェナセンが半導体材料として有用であることを見いだした.
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