研究課題/領域番号 |
24550058
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
重光 保博 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50432969)
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研究分担者 |
大賀 恭 大分大学, 工学部, 教授 (60252508)
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キーワード | 溶媒効果 / 反応速度理論 / 非平衡状態 / 分子動力学法 / 分子軌道法 / 有機固体光物性 |
研究概要 |
溶液内化学反応に関して、溶質分子の状態変化への溶媒分子の追随限界が露呈する非化学平衡溶媒和効果(動的溶媒効果)は、反応速度や光物性に対して本質的な影響を及ぼす。その分子論的理解へ至るステップとして、古典分子動力学法(CMD)を用いた計算機シミュレーションと、高圧下反応速度測定実験とを連携して、理論と実験の両面からのアプローチを進めている。 初年度に続いて、分子シミュレーションの対象として、4-ジメチルアミノ-4’-ニトロアゾベンゼン(DNAB)のcis-trans異性化反応速度の圧力・溶媒粘度依存性データを用いた。初年度は、通常のCMDでは到達できない異性化反応速度のタイムスケール(ms-s)に対して、加速分子動力学法(aMD)を適用し、Kramers理論で表現される異性化反応速度式を、aMDトラジェクトリーから反応速度を外挿して求め、実験値との定性的一致を得た。2年目は、温度・圧力・溶媒種を変えて種々のaMDシミュレーションを実行した。その結果、水分子(TIP3P)に対して高圧領域に対する速度抑制効果(Kramers Turnover)を再現することができた。しかしながら、高粘性溶媒によるaMDでは、cis-trans異性化が有意に生起せず、上記の外挿法で速度定数を求めることができなかった。 応用面では、分子性結晶での蛍光変調に関連する周辺場効果をFMO法やONIOM法を用いて量子化学的に解析し、中心分子へ及ぼす周辺分子の効果を定量的に取りこんで検討した。この検討は、QM/MM-MD法を用いた精密な動的溶媒効果の解析への準備となるものである。 実験的アプローチでは、初年度に引き続いて、クロメン誘導体を用いた置換基の嵩高さと異性化速度の相関から、再配列規模と溶媒再配列効果について反応速度定数データの蓄積を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動的溶媒効果の分子レベル解明への足がかりとして、分子動力学法および量子化学計算法の有効性を検証した。分子動力学法においては、加速分子動力学方法(aMD)がトラジェクトリー解析に有効なことを検証した。量子化学計算においては、分子結晶系に対してFra gment MO法 (FMO)の有効性を検証した。実験的には、動的溶媒効果が及ぼす嵩高い置換基の影響について解析を進め、クロメン誘導体について異性化反応速度データを蓄積した。
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今後の研究の推進方策 |
動的溶媒効果による反応速度抑制効果(Kramers Turnover)が顕著に出現する高粘性溶媒に対して、分子動力学シミュレーションによる解析を進める。シミュレーション加速法として、metadynamics法を検討する。計算精度向上のため、第一原理分子動力学法を検討する。 化学反応の自由エネルギー経路を算出し、解析的モデルと比較して、Kramers反転の分子論的意義の解明を目指す。 有機固体の光物性に対する非平衡凝集効果について、光励起分子の失活経路である円錐交差点に及ぼす特異的影響についてQM/MM-MD法による理論的解析を進める。 並行して、クロメン誘導体その他の化合物に対して、動的溶媒効果の実験的解析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰越助成額は、コンピューター部品の価格改定や、外国旅費に関わる為替レート変動、に該当する。 当該繰越額は、物品費(計算機、実験器具類)・論文投稿費・学会旅費等として適切に執行する。
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