研究課題/領域番号 |
24550059
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
入江 亮 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (70243889)
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キーワード | ヘテロヘリセン / ラセン不斉 / 複素芳香族化合物 / π共役系化合物 / 環化芳香族化 / パラジウム触媒 / 酸素酸化 / 環化異性化 |
研究概要 |
1) 本研究推進の要となるブロモヘリセンの合成法の改良を目指した。その結果、ブロモ基を有する基質への適用には至っていないものの、DDQを酸化剤とするビスフラン系基質の新たな脱水素型環化芳香族化反応を見出した。 2) 動的立体化学制御研究に適する新たなヘリセン系の構築に向けて、ピロール環を含むアザヘテロヘリセン類の合成を検討した。その結果、窒素原子上にトシル基を有するアニリン修飾型エンジイン系に対して、以前のフェノール修飾型基質の環化芳香族化法を適用することによって、アザヘテロ[5]および[6]ヘリセン各種を52~70%の収率で合成することに成功した。興味深いことに、塩基の添加は、ビスアニリン型基質の反応では正の、アニリン/フェノールハイブリッド型基質においては負の効果を示した。現在、これらの結果に基づき、共役系をさらに拡張したアザ[7]ヘリセンの合成を検討中である。 3) 一方、オキサヘテロヘリセンをπ-アレーン配位子とするRuCp*金属錯体の合成を検討した。その結果、ヘリセン末端部(tail)と中央部(head)にRuCp*カチオンユニットが導入されたルテニウム錯体が10:1の比で得られた。さらに、この位置異性体混合物に対してもう1当量のRuCp*ユニットを導入したところ、目的のバイメタリック錯体が得られたものの、これもまた位置異性体の混合物 (head-tail体:tail-tail体 = 1:8) であった。しかし、興味深いことに、シリカゲルカラムによって両者の分離を試みたところ、ヘリセン共役系の両末端のベンゼン環がRuCp*カチオンに配位した錯体(tail-tail体)が単一生成物として単離収率64%で得られることが明らかとなった。この結果は、RuCp*カチオンユニットが配位位置を変えながらヘテロヘリセン上をスライドすることを強く示唆している。現在、これらのπ錯体について、動的配位および立体化学的挙動の解析と制御法の開発を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究推進の要となるブロモヘリセンの合成法の改良については、未だ十分な結果が得られていない。しかし、この解決に向けてDDQ酸化法を見出した。ブロモヘリセン合成への適用に向けて反応条件のさらなる改良が必要であるものの、本研究の推進にとって有用な知見である。また、当初の研究計画にはなかったが、ヘリセン類の新たな動的立体化学制御系の構築に向けて、ピロール環を有するアザヘテロ[7]ヘリセンおよびオキサヘテロヘリセンをπ-アレーン配位子とするルテニウム錯体([RuCp*(heterohelicene)])の合成に関する着想を得た。これまでに、そのモデル系であるアザヘテロ[5]および[6]ヘリセンの合成法を確立し、目的のヘテロ[7]ヘリセンの合成に既に着手している。さらに、π-ヘテロヘリセン錯体各種の合成にも成功し、それらの動的配位挙動についても有用な知見が得られている。このように、必ずしも当初の計画通りに研究は進んでいないが、研究目的である動的立体化学制御によるキラルなヘリセン類の創出に向けて重要な知見が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
1) 平成25年度に見出したDDQ酸化法が必要とする強酸性条件では、ブロモ基を有する基質が分解または副反応を起こすことが明らかとなっている。本年度は、反応条件の緩和によってこの問題を克服し、ブロモヘリセンの効率的な量的合成法の確立を目指す。 2) 平成25年度に開発したパラジウム触媒を用いる脱水素型環化芳香族化反応を鍵として、新規アザヘテロ[7]ヘリセンの合成を完了する。得られるヘテロヘリセンの立体化学的挙動を詳しく調べ、その動的制御を達成する。 3) 平成25年度に合成に成功した[RuCp*(heterohelicene)]錯体は、π共役系上をRuCp*カチオンユニットがスライドすることによって、螺旋キラリティーと面性キラリティーがスイッチする系である。この特異な動的立体化学挙動を詳細に解析して、キラルなヘリセン類の新たな動的光学分割システムを開拓する。
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