研究課題/領域番号 |
24550064
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟薬科大学 |
研究代表者 |
中村 豊 新潟薬科大学, 応用生物科学部, 教授 (20267652)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 合成有機化学 / 天然物合成 |
研究概要 |
グラッシィペプトリド類の迅速かつ効率的な合成を行うためにいくつかの新しい疎水性保護化剤の合成を行うとともに、これらが保護基の性質を保持しつつ疎水性タグとして機能するかを検討した。実際には、アミノ基の保護基であるBoc基とFmoc基およびヒドロキシ基の保護基であるTrt基の疎水性保護化剤の合成を行った。疎水性Boc化剤については、オクタデシル基を1本したものの合成を達成し、アミノ酸のα-アミノ基の保護・脱保護が行え、ペプチド合成に利用できることを明らかにした。また、疎水性Boc保護体はオクタデシルシリルシリカゲルを用いた固相抽出(ODS-SPE)で簡便に非保護体と分離された。 つぎに疎水性Fmoc化剤は、フルオレン環の2位にノナデシル基を導入したFmoc化剤の合成を行うとともに先の疎水性Boc基と同様に保護基として機能するばかりでなく、保護体がODS-SPEで分離できることを示すことができた。 最後に疎水性Trt基はノナデシル基を1本あるいはオクタデシルオキシ基を2本導入したトリチルアルコール誘導体の合成を行った。(4-ノナデシルフェニル)ジフェニルメタノールの塩素化は円滑に進行し、保護化剤となる塩化物を得ることができた。一方、ビス(4-(オクタデシルオキシフェニル)フェニルメタノールの塩素化は対応する塩化物は得られず、原料が回収された。ここで得られたノナデシル化トリチルクロリドを用いていくつかの第一級アルコールの保護について検討を行ったところ、単純なアルコールには収率良く導入できるものの糖誘導体の6位ヒドロキシ基への導入収率は中程度であった。さらに疎水性Trt保護基はTFA処理によって除去でき、保護体はODS-SPEで非保護体と簡便・迅速に分離されることを確認した。 以上のようにグラッシィペプトリドの迅速合成に向けて、そのツールとなる疎水性保護基の開発を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書における平成24年度の研究実施計画では、疎水性保護基の候補として、アミノ基の保護基として汎用されているt-ブトキシカルボニル (Boc)基と9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、さらにヒドロキシ基の保護基であるトリイソプロピルシリル(TIPS)基とトリチル(Trt)基の4つを考えており、さらに様々な鎖長のアルキル基を1~3本導入したもの合成ならびに疎水性保護基としても評価を行う予定であった。しかしながら、今年度に検討を行った疎水性保護化剤はBoc基、Fmoc基およびTrt基の3つで、鎖長はオクタデシル基あるいはノナデシル基を1本導入されたものに限定された。疎水性Boc基に関しては、ハロアルカンからGrignard反応剤を調製し、これとカルボニル化合物との反応によってアルキル基を導入しているので、鎖長と本数が異なる保護化剤の合成は容易である。しかしながら、予備的検討の結果、オクタデシ基を3本導入すると対応する疎水性保護化剤への変換反応が進行しないことがわかっている。また、疎水性Fmoc基と疎水性Trt基に関しては、芳香環上にWittig反応を用いて長鎖アルキル基の導入しており、様々な鎖長を導入することは可能であるが、2、3本導入することは難しいので、別の方法論あるいはアルコキシ基で導入するなどの再考が必要であると考えている。 さらに計画では開発した疎水性保護基を用いてグラッシィペプトリド類の構成単位となるアミノ酸ユニットの合成について検討を行う予定であったが、しかしながら、保護基として機能し、疎水性を利用した分離が可否の確認にとどまり、単純なペプチドの合成が行えることを示すに終った。 以上のことから、当初の研究目的の達成度という点では若干の遅れは認めざるを得ないものの8割以上は達成しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に開発した疎水保護基を利用して、まずはグラッシィペプトリドFとGの迅速合成の検討を行う。その合成計画は当初の予定通り次のようなものである。2つのチアゾリン環に隣接するキラル中心は非常にラセミ化しやすいため、最終段階で構築することとし、まず、その前駆体となる環状デプシチオペプチドを合成する。環状デプシチオペプチドは、大きな2つのフラグメントAとBを連結後、両末端の保護基を除去し、マクロ環化することで得られる。フラグメントAはプロリンアリルエステルから疎水性Fmoc基を用いたN端伸長法で得る。フラグメントBは、2つのチオジペプチドユニットと1つのジペプチドユニットをフラグメント縮合で連結することで調製できるものと考えられる。3つのジペプチドユニットは、アミノ酸のα-アミノ基を疎水性Fmoc基あるいは疎水性Boc基で、セリンの側鎖ヒドロキシ基を疎水性Trt基で保護し、ペプチドフラグメントを調製する。この合成では、各段階の疎水性保護体はオクタデシルシリカゲルを用いた固相抽出(SPE)によって簡単・迅速に分離することによってシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことなく(必要な場合は、精製を行う)反応を進める。この検討によって、有機合成で多くの時間と労力を費やしている分離・精製段階を大幅に省略してすることによって迅速に標的化合物を入手できるかを明らかにする。 最近、疎水性タグを用いたペプチド性化合物の迅速合成が幾つかにグループにより報告されており、反応混合物に極性溶媒を加えて疎水性保護体を析出させることによって分離を行っている。このような性質を付与するには、長鎖アルキル基は最低でも2本は必要であると考えられることから、先に開発した保護基の2本以上の長鎖アルキル基が導入についても検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は新規保護化剤の合成とその機能についての検討が中心であった。したがって、まずは小スケールでそれぞれの保護化剤の合成と保護基として利用できるかの可否ならびに疎水性保護基としての機能の確認を行ったにすぎない。結果的に試薬類など消耗品を購入が抑制されたために次年度に繰り越されることになった。次年度はグラッシィペプトリド類の合成を目指して保護化剤のスケールアップ合成は必須であり、大量の試薬類・溶媒などの消耗品を購入する必要がある。また、グラッシィペプトリド類には高価な非タンパク構成アミノ酸が含まれていることから、これらの購入費用に充てることになる。
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