研究課題/領域番号 |
24550066
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
岩澤 哲郎 龍谷大学, 理工学部, 准教授 (80452655)
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キーワード | ゼスレン / 1、2ージヒドロアセナフチレン / アセナフチン / ベンザイン / 二量化 / 有機半導体 / 1、8ーナフタル酸無水物 / パイ共役系 |
研究概要 |
ゼスレン骨格の大量合成法の開発を目指して、入手容易な1,2-dihydroacenaphthyleneを用いた合成手法の開拓を行った。これまでの経緯を鑑み、今回は有機溶媒に対する溶解度を高めた 4,7-di-tert-butyl-1,2-dihydroacenaphthylene を基軸に研究を進めた。この分子はアセナフチレンの3位と6位にtert-ブチル基を持つ化合物である。合成戦略として大きく二手に分けて行った。一つは、基軸とする分子を二つの求核性炭素を有するジアニオン誘導体と二つの求電子性炭素を有する誘導体とに作り分け、互いを反応させる方法である。もう一つは、基軸とする分子をベンザイン誘導体「アセナフチン」に変換して二量化を試みる方法である。一つ目の方法では、新規な二価アニオンの捕捉を適当な求電子剤で試みたが、最大でも5%の収率に終わった。二つ目の方法においては、アセナフチン前駆体として新規なビニルスルホン体(4,7-di-tert-butyl-1-(phenylsulfonyl)acenaphthylene)を計画した。根拠は、大寺らの脱離によるアセチレン合成法(Chem. Eur. J. 1999, 5, 1355. and J. Am. Chem. Soc. 1984, 106, 3670.)に所在する。このビニルスルホン体を用いてアセナフチンの発生とその二量化を検討したが、現在まで良好な結果を得られていない。しかしながら、アセナフチン前駆体まで到達できたことから、4,7-di-tert-butyl-2-(trimethylsilyl)acenaphthylen-1-yl trifluoromethanesulfoneの合成を行い、これにフッ素試薬を混ぜてアセナフチンを発生させることができるという着想を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画として候補にあげていた二つの合成経路のうち、片方が機能することが見出された。二つの合成計画は、ジアニオンを使うヘテロカップリングを期待する経路であり、もう一つはベンザイン(アセナフチン)を使うホモカップリングを期待する経路である。 一つ目の経路の場合、原料の4,7-di-tert-butyl-1,2-dihydroacenaphthyleneを二クロム酸ナトリウムで無水物に変換し、水素化アルミニウムリチウムでジオール体へ誘導後、三臭化リンによる臭素化と続くスルフィン酸ナトリウムによる置換反応を通して、望みとする新規な3,6-di-tert-butyl-1,8-bis(phenylsulfonylmethyl)naphthaleneを3.9g得ることに成功した。しかしながら、このビススルホン体は電子反発のためか、ジアニオン自体が発生しにくいことが分かった。そこで、ホモカップリングを期待する合成経路に移り、アセナフチンの発生を目指した。アセナフチン前駆体としてビニルスルホン基を持つ基質 4,7-di-tert-butyl-1-(phenylsulfonyl)acenaphthylene を設計し、望み通り合成に成功した。このビニルスルホン体に種々の塩基を作用させてアセナフチンの発生を試みたが、塩基が求核剤として働き、付加体を与える結果に終始することが分かった。これらから、工程数はやや増加するが、より一層確度の高い手法でベンザインを発生させる合成経路の開拓に焦点を絞れば良いことが見出された。すなわち、シリルトリフラート体とフッ素試薬との組み合わせによるベンザイン形成経路を構築できるような前駆体4,7-di-tert-butyl-2-(trimethylsilyl)acenaphthylen-1(2H)-oneが次の標的分子になることが見出された。
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今後の研究の推進方策 |
ベンザイン誘導体の一種であるアセナフチン体の発生と、その二量化によるtetradehydrodinaphto[10]annulene骨格の合成を目指す。具体的には、アセナフチン体の円滑な発生を期待するシリルトリフラート体(4,7-di-tert-butyl-2-(trimethylsilyl)acenaphthylen-1(2H)-one)の調製に焦点を絞った研究展開を行う。まず初めに入手容易な市販の1,2-dihydroacenaphthyleneに対して、フリーデルクラフツ反応を使ってtert-ブチル基を3位と6位に取り付ける。これに二クロム酸ナトリウムを作用させてエチレン部位をモノケトンに変換し、さらに臭素を用いてカルボニルアルファ位に臭素原子を一つだけ導入する。ここまでは汎用な既知反応を使うので比較的問題なく進むと考えている。鍵は次のステップ、即ち得られるアルファブロモケトンをアルファトリメチルシリルケトンに誘導する工程である。第一選択肢として、LDAとtert-ブチルリチウムを用いて二価アニオンに誘導し、これにクロロトリメチルシランを加えて標的分子を調製する方法を考えている。これがうまくいかない場合、第二選択肢として、アルファブロモケトンのケトン基をアセタール保護し、その保護体をリチウムーハロゲン交換により活性化してクロロトリメチルシランと反応させ、脱保護を経て標的のアルファトリメチルシリルケトンに誘導する。この後、得られたシリル化体に強塩基とトリフルオロメタンスルホン酸無水物を作用させて、アセナフチン前駆体体を新規合成する。この前駆体にテトラブチルアンモニウムフルオライドか、もしくはフッ化セシウムを作用させれば、アセナフチンの合成化学的発生方法の確立と、アヌレン骨格を経由するゼスレン骨格の大量合成が可能となる。また、四置換アルケン経由のルートも用意している。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金が生じたのは、出発原料として1,2-dihydroacenaphthyleneを用いる実験状況が生じたためである。当初計画では、市販の1、8ーナフタル酸無水物や、もしくはこれにtert-ブチル基を二つ付けた分子を基盤に標的分子へのアプローチを考えていた。しかしながら実際は、ナフタレン骨格の1位と8位に結合したメチレンに同時に炭素アニオン種を発生させた二価アニオン種がうまく調製できないことが見出された。そこで、 二価アニオン種を経由しない合成経路の確立が急務となり、アセナフチンを経るアプローチに至った。その際、逆合成解析の結果、出発原料として 1、8ーナフタル酸無水物ではなく、市販の1,2-dihydroacenaphthyleneが必要であることが明らかとなったため。 アセナフチン前駆体4,7-di-tert-butyl-2-(trimethylsilyl)acenaphthylen-1(2H)-oneの調製に向けた試薬類、および四置換アルケン合成経路に沿った合成開発において必要となる試薬類、およびこれら実験で得た新規化合物の同定確認作業のための費用に充当する予定。また、これら研究過程で一般的に使用する有機溶媒や実験消耗品等に充てる。
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