平面10π系のイソベンゾフランは、その独特な化学構造に由来する興味深い反応性を有しているが、その高い反応性のため合成的利用は、事実上、適当な前駆体から反応系内で発生させる方法に限られていた。これに対して、最近我々は、適切な条件で合成した後、不活性ガス中で単離・精製を行うと、これまで不安定であると考えられていたイソベンゾフランを化学的に純粋に合成できることを見出している。また、これとは別にオルトホルミル安息香酸エステルに対するアリールグリニャール反応剤の二重求核付加反応を鍵として、ジアリールイソベンゾフランがワンポットで合成できることも明らかにしている。 本年度は、ベンゾシクロブテノンへの求核付加と四員環の酸化的開裂を利用することにより、置換イソベンゾフランの新たな合成ルートを開拓することができた。特に、アルキニルリチウムを求核剤として用いることにより、上述の方法では困難であったジアルキニルイソベンゾフランが効率良く合成できることが明らかになったことは、特筆すべき点である。次に、これらの合成法をもとにして得られる各種イソベンゾフランの潜在的反応性を探った結果、これとエポキシナフタレンとの立体選択的な環付加反応により、多環式骨格が迅速に構築できること、また、これらの化合物を酸性条件で適切に芳香族化させると、対応する置換テトラセンへ誘導できることが分った。この環付加反応とベンザインの[4+2]環付加反応を組み合わせることにより、機能性の面から興味の持たれる電子受容型の置換ペンタセンの合成が可能であることも見出した。さらに、ジエポキシアントラセンをコアとする環選択的なイソベンゾフランの発生とこれを利用した連続的な環付加反応によって、置換基の位置の異なる多環式芳香族化合物の相補的な合成を達成した。
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