研究課題/領域番号 |
24550070
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
小峰 伸之 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90302918)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 可視光 / 有機ヘテロ二核錯体 / 還元的脱離反応 |
研究概要 |
過年度、(4,4'-ジ-tert-ブチルビピリジン)ジメチルフェニル白金-マンガン錯体(4,4'-tBu2bpy)Me2PhPt-Mn(CO)5の白金上での還元的脱離反応が、可視光照射により促進されることを見出している。本年度は、ビピリジン環上の4,4'位およびアリール基上パラ位に電子供与性または求引性の置換基を導入した錯体を合成し、その白金上での還元的脱離反応における可視光促進効果について検討した。ビピリジン環上の4,4'位およびアリール基上パラ位に電子供与性または求引性の置換基を導入した種々の二核錯体を対応する単核白金ニトラト錯体とマンガンアニオン錯体とのメタセシス反応により合成した(収率63~86%)。DFT計算により、これら二核錯体のHOMOおよびLUMOはそれぞれ、白金-マンガン結合上および置換ビピリジン環上に分布しており、極大吸収波長の吸収はHOMO-LUMO間の電子遷移によるものと考えられる。合成したいずれの二核錯体においても、白金上での還元的脱離反応により選択的にメチルマンガン錯体とメチルアリール白金錯体が生成した。この還元的脱離反応は可視光により促進され、極大吸収波長に最も近い波長の可視光を照射した場合に、最も促進された。これらの結果は、可視光照射下でのメチル基移動反応は、二核錯体のHOMOである白金-マンガン結合からLUMOである置換ビピリジンへの電子遷移により生成する励起種を経て進行していることを強く示唆するものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、可視光照射下で種々のトリオルガノ白金-異種金属二核錯体における白金上での還元的脱離反応を検討し、可視光による還元的脱離の促進効果の発現メカニズムを明らかにするとともに、この還元的脱離反応における可視光による促進効果の一般性を検討するを目的としている。本年度は、種々のトリオルガノ白金-異種金属二核錯体を合成し、その白金上での還元的脱離における可視光による促進効果に対する白金上の配位子や有機基の影響を明らかにすることを目標に研究を行った。その結果、本年度は、ビピリジン環上の4,4'位およびアリール基上パラ位に電子供与性または求引性の置換基を導入した錯体を合成し、その白金上での還元的脱離反応における可視光促進効果について検討し、可視光照射下でのメチル基移動反応は、二核錯体のHOMOである白金-マンガン結合からLUMOである置換ビピリジンへの電子遷移により生成する励起種を経て進行していることを強く示唆する結果を得ており、ほぼ計画通りに研究が進んだと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、速度論的手法や理論化学的手法による還元的脱離の反応機構の解明を行う。すなわち、トリオルガノ白金-異種金属二核錯体の還元的脱離の反応速度への錯体濃度の影響や配位子および異種金属アニオンの添加効果に加えて溶媒効果について検討し、可視光照射下、非照射下での結果を比較検討することで、実験化学的に反応機構を明らかにする。また、予備的な理論化学的な検討から、ビピリジン配位子を有するジメチルファニル白金‐マンガン錯体における可視光による促進効果はマンガンアニオン由来のHOMO結合軌道の電子がLUMOであるbpyのπ*軌道に分子内一電子遷移により還元的脱離が促進されると推測しているが、電子遷移による生じる励起状態に加え、遷移状態を理論化学的手法により明らかとすることで、可視光促進効果の発現メカニズムを理論的に明らかにする。さらには、トリオルガノパラジウム-異種金属二核錯体を合成し、可視光による還元的脱離反応の促進効果の検討や、ジオルガノロジウムもしくはイリジウム-異種金属二核錯体における10族金属以外の金属上で還元的脱離における可視光による還元的脱離への促進効果を検討し、二核錯体の還元的脱離における可視光促進効果の一般性を明らかとする。これらの知見を基に可視光により制御・促進される新たな遷移金属錯体反応を開発するための知見を得る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度本助成金による購入を予定していた設備備品(ガスクロマトグラフ)は、研究者の所属する研究グループの別予算により購入したため、本助成金による購入を行わなかった。そのため、次年度使用額が発生するに至った。次年度は、トリオルガノ白金-異種金属二核錯体の還元的脱離に関する速度論検討を行う予定であるが、これに行うに当たり、反応を追跡するためのNMR測定用の重水素化物やNMR管、シュレンク管型UVセルなどの高価な薬品類や器具類が必要である。また、トリオルガノ白金-異種金属二核錯体の合成のためにアルゴンまたは窒素などの不活性ガスやシュレンク管、原料となる高価な貴金属塩類等が多数必要となる。これらの薬品や器具類を購入するために、次年度使用金と次年度に当初配分されていた助成金とを合わせて使用することで、本助成金を有効に活用する予定である。さらには、本研究で得られた成果を国内外で発表するとともに、関連する研究の情報収集を行うために、国内外の学会への参加する予定であり、そのための旅費として本助成金を使用する予定である。
|