研究課題/領域番号 |
24550070
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
小峰 伸之 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90302918)
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キーワード | 可視光 / 有機へテロニ核錯体 / 還元的脱離 |
研究概要 |
ビピリジン環上の4,4’位およびアリール基上のパラ位に電子供与性または求引性置換基を導入した錯体の白金上での還元的脱離反応における可視光促進効果について検討した。ビピリジン環上の4,4’位およびアリール基上パラ位に電子供与性または求引性の置換基を導入した種々の二核錯体を対応する単核錯白金ニトラト錯体とマンガンアニオン錯体とのメタセシス反応により合成した白金-マンガン二核錯体において、白金上での還元的脱離反応により選択的にメチルマンガン錯体とメチルアリール白金錯体が生成した。この還元的脱離反応に関する速度論的手法による反応機構の検討を行った。ジメチルアリール白金-マンガン二核錯体の還元的脱離の反応速度への錯体濃度の影響や配位子および金属アニオンの添加効果に加えて、溶媒効果について検討した。光照射条件下において、ビピリジン配位子およびマンガンアニオン[PPN][Mn(CO)5]の添加効果は観測されず、また、顕著な溶媒効果も観測されなかったことから、白金-マンガン結合のイオン的な乖離やビピリジン配位子の乖離を経ずに本還元的脱離反応は進行すると考えられ、また、フリーラジカル禁止剤の添加効果もなかったことから白金-メチル結合のホモリティックな切断によるフリーラジカルの生成を伴った機構でもないと考えられる。現在のところ、分子内一電子遷移により進行する機構、すなわち、可視光の照射によって、マンガンアニオン由来の軌道からビピリジンのπ*軌道への分子内一電子遷移がおこり、マンガン1価カチオンとビピリジンラジカルアニオンが生成し、反応が進行すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、可視光照射下での種々のトリオルガノ白金-異種金属二核錯体における白金上での還元的脱離反応を検討し、可視光による還元的脱離の促進効果の発現メカニズムを明らかにするとともに、本反応における可視光による促進効果の一般性を検討することを目的としている。昨年度は、ビピリジン環上の4,4’位およびアリール基上のパラ位に電子供与性または求引性置換基を導入した種々のトリオルガノ白金-マンガン二核錯体を合成し、白金上での還元的脱離に対する可視光による促進効果における白金上の配位子や有機基の影響を明らかにした。その結果、可視光照射下でのメチル基移動反応は、二核錯体のHOMOであるマンガンアニオン由来の軌道からLUMOである置換ビピリジンへの電子遷移により生成する励起種を経て進行していることを強く示唆する結果を得た。さらに、本年度は、速度論的手法による反応機構の解明を行った。以上のように、研究は本年度までおおむね計画どおりに順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、速度論的手法に加え、理論化学的手法による還元的脱離の反応機構の解明を行う。予備的な理論化学的な検討から、ビピリジン配位子を有するジメチルフェニル白金-マンガン錯体における可視光による促進効果は、マンガンアニオン由来のHOMO結合軌道の電子がLUMOであるビピリジンのπ*軌道に分子内1電子遷移により、還元的脱離が促進されると推測しているが、電子遷移により生じる励起状態に加え、遷移状態を理論化学的手法により明らかとすることで、可視光促進効果の発現メカニズムを理論的に明らかにする。また、トリオルガノ白金-異種金属二核錯体やトリオルガノパラジウム-マンガン二核錯体における10族金属上での還元的脱離に対する可視光による促進効果を検討し、可視光促進効果に対する金属種の影響を明らかにする。これにより、二核錯体の還元的脱離における可視光促進効果の一般性を明らかにすることで、可視光により制御・促進される新たな遷移金属錯体反応を開発するための知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
異種金属二核錯体の合成のためにシュレンク管を購入予定であったが、その購入を一部見合わせた。 翌年度は、異種金属二核錯体の合成や反応のためにアルゴンまたは窒素などの不活性ガスや原料となる高価な貴金属塩類などの薬品類を購入するために、次年度使用金と翌年度分として請求した助成金と合わせて、本助成金を有効に活用する。さらには、本研究で得られた成果を国内外で発表するために、国内外の学会への参加する予定であり、そのための旅費として本助成金を使用する予定である。
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