研究課題/領域番号 |
24550071
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
高尾 昭子 (稲垣 昭子) 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (00345357)
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キーワード | 光増感性錯体 / パラジウム / 触媒的光反応 |
研究概要 |
昨年度は主に基質適用範囲の調査に重点を置いて検討した。シンナミルアルコールとのカップリングし、C-H活性化を受ける基質を調査した結果、ベンゼン、トルエン、プロピルベンゼン、キシレン等は反応が進行せず、シンナミルアセテートのホモカップリング生成物を与えるのに対して、1,2,4,5-テトラメチルベンゼン(デュレン)と反応が進行したことから、求電子的な反応であることを明らかにしている。本年度は、光触媒活性の向上のために、触媒の安定性を向上させることが不可欠であると考え、光増感性ユニットをより光に安定なユニットへ変更した触媒合成に着手した。 すべて配位結合からなるルテニウム(II)ポリピリジルユニットからイリジウム―炭素シグマ結合を有するIr(III)-シクロメタレート型を有する新規Ir-Pd二核錯体の合成に成功した。イリジウム(III)上の配位子となるフェニルピリジンを合成したのち、塩化イリジウムと錯化させることによってクロライド架橋ダイマーを合成したのちに、架橋配位子となるジブロモビピリミジンを作用させることによって単核イリジウム錯体を合成した。こののちにルテニウムの系と同様な操作によってパラジウムユニットを導入することができた。フェニルピリジン中に様々な置換基を有するフェニルピリジンを合成し、これを含む単核イリジウム錯体、およびこれらにパラジウムユニットを導入したIr-Pd 二核錯体はいずれも新規な化合物群である。中でもイリジウム単核錯体は結晶性に優れ、ほぼすべての錯体の構造を単結晶エックス線構造解析により明らかにした。 これらの合成したIr-Pd触媒の溶液中での安定性を調査したところ、対応するRu-Pd触媒が光照射に伴い、徐々にパラジウムブラックが生成し、分解反応が進行するのに対して比べて安定に存在字うることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に光エネルギー捕捉ユニットを大きく変更することにより大幅な光励起三重項寿命の伸長を目的とした。これまでは主にルテニウム(II)ポリピリジルユニットを光エネルギー捕捉ユニットとして用いていたが、これをイリジウム(III)シクロメタレート型へ変換することによって、高い触媒活性と安定性の両立が可能であることを見出した。この結果は、今後の触媒設計に重要な知見を与える。さらにこのイリジウムシクロメタレート錯体をナフチル基などの紫外光捕捉ユニットと組み合わせることによって励起寿命のさらなる伸長が期待される。以上の成果が得られたため、昨年度の結果と踏まえ、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果から、ルテニウム(II)ポリピリジル型からイリジウム(III)シクロメタレート型の光増感性ユニット変更することにより、高い安定性と触媒活性を両立しうるPd触媒を合成しうることを明らかにした。このような物性変化は、光触媒の設計の上で高い普遍性を持つことであるため、非常に重要な結果であると考えている。このため、Pd触媒の反応性調査にとどまらず、様々な触媒系への応用を考える必要があると考え、特定の反応に限定せず、Pd触媒を用いた様々な反応性調査へと展開する予定である。さらに、イリジウム上のシクロメタレート配位子にナフチル基を結合させることにより、紫外領域の光を吸収するナフチル基と可視領域の光を吸収するイリジウムユニットを複合化させたバイクロモフォアへと展開し、より高性能なパラジウム触媒の合成に取り組む。
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次年度の研究費の使用計画 |
反応試薬やガラス器具類のいくつかを、同じ講座内で保有のものが利用可能であったため。 次年度に、不足しているガラス器具類、重溶媒、スターラー、オイルバス等の購入に利用する。
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