研究課題/領域番号 |
24550072
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
柘植 清志 富山大学, その他の研究科, 教授 (60280583)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 発光性配位高分子 / 発光性チオラト錯体 / 銅 / 銀 / d10 / 複合化 / エネルギー移動 |
研究概要 |
本研究では、強発光性の銅(I)ハロゲノ錯体、銀(I)ハロゲノ錯体に関するこれまでの研究を踏まえ、新たな銅(I)、銀(I)発光性錯体の開発に併せ、複合化による銅(I)、銀(I)錯体の高機能化を行う。具体的にはチオラト配位子を用いた新規発光性錯体の合成とこれまで得られた強発光性錯体の複合化を検討する。 本年度は、芳香族チオラト配位子を用いた新規発光性銅錯体を合成した。その結果、ベンゼンチオール、p-トルエンチオール、4-フルオロチオール、4-ニトロベンゼンチオールを配位子とする発光性の複核および三核錯体をホスフィン誘導体を補助配位子として合成することができた。これらの錯体は可視領域に発光帯を示すが、その発光は第一次的には芳香族チオラト配位子の性質により制御され、青から赤までの発光が観測される。一方で、ホスフィン配位子の種類、核数はそれより小さい影響を与えることがわかった。 複合化に関する研究としては、新規に混合配位子型銅(I)錯体[Cu2I2(PPh3)2(L)(1-x)(L’)x]の合成を試みた。(L、L’) : (ピラジン、アミノピラジン)および(ピラジン、ピペラジン)の組合せで複合型の錯体が合成できることを示した。単結晶構造解析によりこれらの錯体の構造を決定し、一次元鎖上にLおよびL’が混合して配列された錯体であることを確認した。複合型錯体を様々な反応比率で合成し、それぞれの比率で錯体の発光スペクトルの測定を行った。その結果、発光スペクトルは二つの発光サイトからの重ね合わせで説明でき、発光量子収率は親化合物の中間的な値をとることが明らかとなった。このことから、混合配位子型の錯体でも、発光励起状態は各サイトの配位子の種類により限定され、これらが連結された系として複合型錯体が捉えられることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、チオラト配位子を用いた新規発光性錯体の合成とその発光メカニズムの解明による発光性の制御、および、発光性配位高分子の発光性に及ぼす複合化の影響の解明とそれによる高機能化を目指している。 平成24年度は、チオラト錯体に関しては主に銅錯体について研究を行い、新規の複核および三核錯体を合成しこれらが発光性であることを示す事が出来た。また、4位を置換したベンゼンチオラトを持つ錯体を補助配位子のホスフィンを選択することにより複数合成し、チオラト錯体でも系統的に錯体を合成できる可能性があることも明らかとした。これらは、最終的な目標である必要とされる発光色を示すチオラト錯体の合成に直結するものである。また、複合化による配位高分子の機能化に関しては、これまでの金属混合型、ハロゲノ配位子混合型、に加え、架橋配位子混合型の錯体の合成に試み、混合配位子型の錯体も合成が可能であることを示す事が出来た。また、これらの錯体の発光スペクトルと発光量子収率から、エネルギー移動の可能性についても示す事が出来た。当初目的では、本年度は混合金属型錯体の合成を主に試みる予定であったが、並走して行う予定の配位子混合型錯体を主に合成まで展開することができた。これらのことから概ね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、チオラト銅(I)錯体は室温固体状態で発光性であることが示せたため、他のチオラト配位とホスフィン配位子の組合せによりさらに詳細な解析を行う。また、これらの錯体をもとに、さらに配位子としてピリジン系の配位子を導入した錯体の合成を検討する。ハロゲノ錯体系でピリジン系配位子への電荷移動遷移からの発光は強発光性であり、発光エネルギーの調整も比較的容易であることが明らかとなっていいるため、チオール系錯体でも、ピリジン系配位子の系統的な導入が可能であるか、また、これらを用いた発光性の調整が可能であるかについて検討する。チオラト配位子を持つ銀錯体の合成も検討する。 発光性金属錯体の複合化に関しては、本年度の研究を踏まえ、さらに混合配位子型錯体の合成を行い、その物性を検討する。ピラジンーピペラジン混合系は、合成は容易であったが、結晶溶媒を含む結晶が生成し、結晶溶媒の脱離により結晶構造が保たれない可能性がある。これを防ぐために、ビピリジン系の配位子を用いた混合配位子系の合成を試み、構造が良く規定された複合型錯体を合成し、発光スペクトルに加え発光量子収率・発光寿命の検討を行い、複合型錯体中でのエネルギー移動についてさらに検討を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、旅費、別刷り費として計上していた予算が予定より少額で済んだため235019円を次年度に繰り越した。申請時の予定では、25年度は備品は導入しない予定であったが、長波長側まで測定可能にできるよう波長拡張アセンブリを導入することとした。このため、25年度は新規化合物の合成を行うための、金属試薬、溶媒・有機配位子、ガラス器具および、測定に用いる分光用セル、寒材として計上できる金額が400,000円と当初予定より少なくなってしまった。次年度に繰り越した予算は、これらの合成および測定に必須の消耗品購入に充て、効率良く研究を進展させる。
|