研究課題/領域番号 |
24550073
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
上杉 正樹 金沢大学, 自然科学研究科, 研究員 (00622094)
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研究分担者 |
中西 孝 金沢大学, 学際科学実験センター, 教授 (00019499)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Sr-90 / 迅速分析法 / 福島原発事故 / 汚染対策 |
研究概要 |
原子力緊急事態において放射性物質のモニタリングは、放射線防護、汚染対策、事故からの復旧に重要である。福島第一原子力発電所から海洋への放射性セシウムと放射性ストロンチウムの拡散は今も続いている。特に、Sr-90はγ線を放出しないので、定量にはβ線を測定しなければならず、妨害となるβ線放出核種を除くための精製分離が必要である。このため分析に手間と時間がかかり、調査結果の公表が遅いことや測定データの不足が問題視され、分析法の迅速化が急務となっている。 平成24年度においては、海水試料を対象とし、測定方法と化学分離方法の確立を試みた。測定方法を確立するため、β線測定器について繰り返し測定により自己吸収と収率補正用に添加したSr-85トレーサのγ線の影響について検討した。化学分離法を確立するため、一般的な沈殿捕集剤や複数の錯形成剤の使用と固相抽出法を組み合わせることを試みた。Sr-85トレーサを購入し、海水にSr-85トレーサを添加することにより、目的とするSr-90の濃縮法及び精製法に関する実験を行った。クエン酸を妨害元素(ウラン他)のマスキング剤として使用し、濃縮・粗分離にヒドロキシアパタイト(HAP)を用いた共沈濃縮法を検討した。海水中に大量に存在するナトリウム、カリウム、放射性セシウムなどを水溶液に残してストロンチウムをマグネシウム、カルシウムの沈殿とともに分離することに成功した。この沈殿はリン酸塩と炭酸塩であり、食品添加物でもあるので安全な物質である。精製分離には、錯形成剤のマスキング効果により、妨害元素の抽出を制御できることを確認した。また、固相抽出法で使用実績があるSr-Rad-diskによる化学分離の有効性と適用範囲の限界を検討した。さらに第14回環境放射能研究会や第56回放射化学討論会等に参加し、情報を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、放射性ストロンチウムの濃縮分離方法、精製法、測定法に新しく開発された技術を取り入れることにより、分析期間を2か月から1日程度に迅速化し、分析者と環境に配慮した定量法を開発することとしている。 これまで検討実験に必要な測定試料(福島第一発電所近くの海水及び汚染のない日本海の海水)が入手できたこと、実験機材の購入が順調に進み、化学分離操作の検討が行える状態にあること、予備的分離実験が予想通りに進んでいることが挙げられる。 ただ、測定方法において、使用を予定していた測定器の性能に起因する検出限界の上昇の問題が発生し、解決策として化学回収率の補正に用いるSr-85トレーサの使用量を減らす必要が生じたことなどの問題点が新たに浮上してきた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた結果を基にして、環境試料の適用性を拡張する。測定方法、化学分離方法など、開発した分離方法を環境試料に適用する。そのため、福島第一発電所の近くで採取された試料をもちいて検証実験及び日本海で採取した試料を用いて比較検討実験を実施する。また、測定等における不確かさの見積もりを行う。 1.水試料で開発した方法の適用を拡大するため、土壌試料については、酸による溶出条件を検討する。生物試料については、牛乳、野菜、魚などのカルシウムが多い試料の分解条件を検討する。また、分解後の粗分離を検討する。また、土壌試料については、天然の放射性鉛、ラジウムなどの妨害元素が多いので分解後の粗分離を検討する。なお、試料の分解と溶出について、加圧容器、高周波加熱器等を用いて試料の分解を行う。 2.化学回収率については、Sr-85トレーサによるγ線測定を検討する。不確かさを小さくするには、化学回収率の補正又は見積もりは重要である。このため、トレーサの添加回収実験を繰り返し、化学回収率の変動範囲を確認する。 3.分析精度を確認するため、IAEAなどの標準試料による分析結果に基づき評価するとともに分析専門機関へ従来法による分析を依頼(2試料程度)してクロスチェックを実施し、改良法の妥当性を確認する。検討結果を順次、研究会、学会(放射化学討論会)等に報告する。また、測定器のクリーニングなどの保守を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.検討実験に必要な消耗品を入手する。 測定に必要な、測定容器、β線の吸収板の購入、標準線源(Sr-85トレーサ等)購入する。また、土壌試料の分解に必要な試料分解容器、高周波加熱器、化学分離に必要な、試薬、ガラス器具、固相抽出ディスク、イオン交換樹脂などを購入する。その他、実験室の汚染防止対策に必要な機材及び除染器具を購入する。 2.試料採取や学会参加のための旅費及び投稿に必要な経費を支出する。 福島県に出張し、土壌や水試料を入手する。また、研究会や学会に参加する。その他専門誌に投稿するための英文校閲を行う。
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