研究課題/領域番号 |
24550073
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
上杉 正樹 金沢大学, 理工研究域, 研究員 (00622094)
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研究分担者 |
中西 孝 金沢大学, 学際科学実験センター, 特任教授 (00019499)
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キーワード | Sr-90 / 迅速分析法 / 福島原発事故 / 汚染対策 / 液体シンチレーション / β線スペクトル / Sr-Rad disk |
研究概要 |
原子力緊急事態における放射性物質のモニタリングの中で、放射性ストロンチウムの定量は不可欠なものである。福島第一原子力発電所から海洋への放射性ストロンチウムの漏洩は今も、続いていている。そのため、分析結果の迅速な公表が期待されるのであるが、Sr-90はγ線測定ができないため、測定結果の公表は1-2ヶ月遅れとなっている。このように分析手法の迅速化の要求は高まるばかりであるが、これら分析法の改善には課題が多く、対応が未だなされていない。 本研究では、平成25年度において前年度開発したクエン酸とヒドロキシアパタイト(HAP)を用いたストロンチウムの共沈濃縮法の検討結果を基に、海水中のSr-90について、迅速分析法の開発を継続した。濃縮・疎分離方法の迅速化の検討では、Sr-85トレ-サを用いて、課題であった沈殿分離の化学回収率低下に対処した。これにはSr-Rad diskを繰り返し使う手順に変更することで濃縮法の迅速化に成功した。また、本年度から液体シンチレーション測定器が使用できるようになり、β線スペクトルの測定が可能となったので、Sr-90の直接測定を開始した。これにより、Y-90の成長に2週間を必要としていた従来法の欠点を解決できる。さらに、液体シンチレーション測定器を用いた測定法について、クエンチング効果を低減できるHDEHP抽出測定法(2層法)の適用を検討した。 以上の改善点について、手法の妥当性を確認するため、福島第一原発近傍の海水にこの手法を適用し、分離操作の所要時間は、4時間、測定時間は7時間で定量結果が得られることを確認した。なお、本研究成果については、筑波高エネルギ-研究所にて開催された、「第15回環境放射能研究会」において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、放射性ストロンチウムの濃縮分離方法、精製法、測定法に新しく開発された技術を取り入れることにより、分析期間を1日程度に迅速化し、分析者と環境に配慮した定量法を開発することとしている。 これまで海水中のSr-90の濃縮・分離については、迅速化に成功したが、土壌の分析には適用が成功しておらず、適用範囲が広げられなかった。また、前年度の自己点検において報告したが、当初予定した測定器(ガスフローβ線測定器)の性能により、Sr‐85による化学回収率の補正ができないことが判明した。このため、本年度は測定を液体シンチレーション測定装置による方法に変更して解決を図ったところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度と平成25年度に得られた結果を基にして、環境試料の適用範囲を拡張する。迅速法として、Sr-90直接測定法とY-90分離測定法の両面から妥当性を確認する。 1.液体シンチレーション測定装置による測定方法の確立及び土壌への適用を進める。化学回収率補正のための簡易法の開発を検討するとともに、分析精度を確認するため、IAEAなどの標準試料を用いて分析を行い評価する。 2.分析方法の適用範囲を広げるために妨害物質を除去する方法を検討する必要があるが、海水ではウランを、土壌ではウラン系列とトリウム系列を念頭に置いて測定の妨害となる物質の除去方法を検討する。 3.成果については、放射化学討論会、環境放射能研究会等で発表すると共に、論文としてまとめる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
納入予定の物品の納期が遅れたこと及び参加予定の研究会が近くでの開催となり、節約できた。 検討実験に必要な消耗品を購入する。液体シンチレーション測定に必要な、測定容器、シンチレータ、機器校正用の標準線源(Sr-90,Sr-85)の購入、海水及び土壌の採取に必要な採取器の購入等、化学分離に必要な試薬、ガラス器具、固相抽出ディスク等、さらに、試料採取や学会参加のための旅費とする。福島県内で海水及び土壌を採取及び名古屋大学及び筑波高エネルギー研究所に出張、その他専門誌に投稿するための英文校閲等
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